第4話
チャイムが鳴り終わった瞬間、大急ぎで教室に入った四人はドアを開けた瞬間、担任の女教師に名簿で頭を叩かれた。
彼女はアリッサと言い、小さい身体に見合わず軍隊出の教師で五分前行動が基本なのだ。
ユウコはブツクサ言いながら叩かれた頭をさすりながら着席すると、軽いお小言をアリッサからもらい午後の授業が始まった。
本日は午後の授業は一限しかない、授業が終われば
この学園の卒業レベルは20なので生徒たちはダンジョン探索に精を出すのだ。
エリオ達は授業が終わるとそのまま担任の女性について職員室に行き、エリオのチーム加入の許可申請をもらいに来た。
「話は聞いているが、本当にやるのか、無理しなくても良いんだぞ?」
エリオがダンジョンに潜りたいと申請した時は受けるように、政界政府とは別の誰もが逆らえない人物から頼まれていたのだ。
だが、実際に申請されると心配で仕方がなかった。エリオは職無しのレベル0でレベルは永遠に上がらないのだ、安全装置があるとはいえダンジョンに潜ったら命の危険性すらあるのだ。
ちなみに、安全装置とはライフが1/3になった時点でダンジョンから強制退場させるシステムで、これにより危険なくダンジョンに潜れるのだ。
だが、それでも一撃でライフすべて削る魔物がいないわけではないから絶対に安全とは言えないのだ。
「正直、怖いです。でも、こんな僕でも有栖川さん達は仲間に迎えてくれました。だから頑張りたいんです」
教師はその言葉を聞くと背もたれに寄りかかり、ため息をつく。仮想ダンジョンならまだしも本物のダンジョンでは死の危険がある。そんな場所にエリオを送って良いのかと。
「だがな、世界政府が本当に承認するかわからないぞ」
「ええ、多分ダメだと思うので、エリル様にも連絡を入れて欲しいんです」
エリル様とはエリル・クライシスのことであり彼女はフランシス十字聖教高位神官で世界政府でも彼女の意見に反対できるものは少ない。
もちろん一介の教師であるアリッサでは反論することも許されないのだ。
「そうか……」
「はい、ダンジョンに潜りたくなったら連絡するようにと言われてますので、お願いします」
エリオにエリルの名前まで出され、すでに自分では止められないことを悟るとアリッサは机を右手でポンと叩き棚から申請書類を取り出して彼の前に置いた。
エリオは書類を受け取り、一通り目を通し終えると必要事項を記入してアリッサに手渡した。
彼女は記入漏れがないか書類をチェックし、間違いがないのを確認すると、その書類をFAXで世界政府へと送った。
FAXで書類を送ったアリッサの裾をチョイチョイとユウコが引っ張る。
「ユウコ、なんだ?」
「アリりん、自分、大剣やるっすから、武器交換の申請書類お願いするっす」
教師である自分を敬称で呼ぶ頭の弱いユウコにアリッサはデコピンを喰らわせると先生と呼ばんかと叱り付けるとユウコはみんなを守りたいから
「知らないんっすか? 男子三日会わねば万事塞翁が馬っすよ」
「……いや、お前女だし、その
「変なこと言うアリりんっすね、今は男女平等っすよ」
まるで教師のくせに差別するんっすかと言わんばかりの残念そうな表情でアリッサを見るユウコに頭にきた彼女は生徒名簿でユウコの頭を叩いた。
正直、訂正しないのは教師失格だと思うが、訂正しても覚えないし間違えって覚えるので、いい加減うんざりなのだ。
「ほら、これだろ持っていけ」
貸し出し武器交換票をユウコの顔に叩きつけ。
「士別れて三日なれば、
もちろん、古文などユウコの前には外国語で雑音であり、
「もう、何するんっすか」
ユウコは顔に叩きつけられた用紙を剥がし、おっコレ交換票っすねと言うと教師に言うエイトは思えない軽い挨拶で礼を言う。
「もう、用が済んだら、さっさと行け、ユウコの相手をしていると疲れる」
アリッサは犬を追い払うように手を振ると、自分の事務仕事に戻った。
「そうだアリッサ先生、大事なこと忘れてました」
「なん、なんだよ……」
せっかく仕事モードに戻ったと言うのに、ミリアに引き戻されてアリッサの不快指数は限界を突破する勢いだった。
「今日、仮想ダンジョンの使用をお願いしたいんですけど」
「今日の今日でか?」
アリッサは職員用の書類棚に向かうとファイルを取り出し今日の日程を確認する。
通常転移ゲートを使うときは週末に一週間の予約をするのがルールだが、ごくまれに怪我や病気などでゲートの順番が開く場合がある。アリッサはその空きを探しているのだ。
「う~ん、5番目のチーム“ガデッサ”さっき病欠で探索中止届が出たから、16時20分から3番ダンジョンゲートが使えるぞ」
「3時間後ですか、それでお願いします!」
「わかった、転移ゲートの用務員に連絡は入れておくから遅れるなよ」
「はい!」
「はいっす!」
「失礼いたします」
「よろしくお願いします」
ミリア達は元気よく返事をしてお辞儀をすると、いきよいよく教室を出た。
16時20分までまだ時間がある。とは言え準備をしていたらすぐに時間がたってしまう。
ミリア達が転移ゲートがある施設に到着すると、入り口付近に併設されている商店街の人だかりで前に進めない状態だった。
この商店街はダンジョンで倒した魔物が排出するコインで買い物ができ、素材の買取もここでできる。
商店街は武器屋、防具屋、魔法屋、素材買取屋の四店舗からなり、いつも人でごった返していた。
だが、その端に閑古鳥が鳴いている店舗があった。
それは店ではなく、学園が用意した武器の貸し出しスペースだった。
「すみません、良いですか?」
ミリアが受付で座る男性店員に声をかけると読んでいた新聞を閉じてジロリとミリア達を舐めるように見回す。
「こんな時期になんの用だい」
通常、入学時に原則、全ての生徒に武器が貸与されるが、金のある家の者などは自分で用意したりする。
それ故に、この時期に武器や防具を借りに来る者は、まずいないのである。
だから武具貸し出し屋のオヤジは学生が冷やかしにきたのだと思ったのだ。
「武器を取り替えに来たっす!」
「取り替え? なんだ貸与武器壊したのか?」
「違うっすよ、大剣使うっすよ」
ユウコの要領を得ない言葉にオヤジは眉をひそめ首を傾げる。ミリアはそれを見てユウコのバッグから長剣と大盾を取り出すと店のカウンターに出し、ユウコから武器交換票を奪い取るとオヤジに手渡した。
「ああ、はいよ、返却交換ね」
受け取った武器を見てオヤジがギロリとユウコを見る。その形相はまるで仁王のようで、あのユウコでさえたじろいだ。
オヤジは傷一つついていない剣と盾を見て怒っているのだ。
使いきっていない武器を返却すると言うのが許せなかったのだ。
「おい、全然使ってねぇじゃねぇか。こんなんで武器の良し悪しなんかわかるわけねぇだろ!」
「……だってっすね」
いつもの威勢がなくなり、エリオをチラリチラリとユウコは見る。
それは助けを求めると言うよりも、こいつのせいっす、文句はこいつに言ってくださいっすと言わんばかりのチラ見だった。
ある意味清々しいまでの責任転嫁チラリズムだった。
その責任転嫁チラリズムに気がついたオヤジはエリオに向かい片手剣と盾を台の上に置く。
「おい坊主どう言うこった、この嬢ちゃんにはこの剣は合わないてのか!?」
「す、すみません。申し訳ありません」
そう言うとエリオはユウコの後ろに隠れた、この中で自分が隠れる物体は背が高い彼女だけだからだ。
「謝罪が欲しいわけじゃねぇよ、理由を言えよ、理由をよ」
怯えるエリオに脅す気はなかったんだけどなと頭をポリポリと掻いて、すまねぇなと彼に謝った。
謝罪を受けてユウコの影から出てくると、なぜユウコに片手剣の装備がダメなのかを説明した。
だが、オヤジは
「そうですね、普通の戦士なら、そうだと思います。でも、川上さんの場合、勇者チームの
「ガハハハ、この嬢ちゃんがクトォルスと同じとは大きく出たな。いいだろうそれなら好きな武器を選びな」
そう言うとオヤジは大剣が並んでいる場所へとエリオ達を案内した。
案内された大剣の置き場には大量の大剣が置かれており、他の武器類と比べても人気がないのが窺えた。
ダンジョンでは大通り意外にも横道などの狭い道がある。狭い道では大剣は邪魔になるし、普通の筋力では剣を振る速度が遅く殲滅速度も落ちるのだ。
だから
ユウコは並べられた無造作に大剣を取るがエリオはそれに待ったをかける。
「なんっすか?」
「みんな同じ作りの既製品の大剣だけど、出来の良さに差があるからよく見た方がいいですよ」
そう言うとエリオは大剣を一本一本手に取り調べ始めた。武器にはランクがあり既製品はすべからくC級品だ。
同じC級品でも良い物と悪い物があり、エリオはそれを選別する。
その眼差しは真剣で、とてもいじめられっ子の彼ががするような眼差しではなかった。
その眼差しにオヤジもホウと感嘆の息を漏らした。
更に選りすぐった大剣からエリオは一本を選び取るとユウコに手渡した。エリオに手渡された大剣はユウコが適当に取った大剣と何ら変わらない見た目だった。
当然ユウコは剣の違いが分からなく首を傾げた。
「なにが違うんっすか?」
「これ、気力ゲージが武器についてて、あ、気力ゲージというのは魔物を倒すと溜まるんだけど。それが溜まると必殺技が出せるんだよ」
「ふええ、そんなのがあるんっすか」
そう言うとユウコは人の迷惑も考えず店内で大剣をブンブンと振るい、ミリアにスネを杖で思いっきり叩かれる。
「ただ、これは既製品だから、そこまでの力はなくてゲージが溜まった状態で気合を入れると攻撃力が多少上がる程度だね」
エリオはユウコの大剣から逃れて匍匐前進のような形でそう言うと殴られても飽きずに大剣を振り回す彼女を呆れるように見る。
「若いのになかなかの
同じようにうつ伏せになっているオヤジはエリオの品物を見る確かな目に驚いた。これほどの審美眼を持つものは特別なスキルを持つものだけなのだ。
もちろん、エリオにはそんなスキルは無かった。
「あ、ありがとうございます。昔、知り合いの鍛冶屋さんに見極め方を叩き込まれたので」
オヤジはその言葉に苦笑する。自分も鍛冶屋で10年修行し、研鑽しているが未だに見極めることができないからだ。
まあ、結局、腕も審美眼も無いから今はしがない学校の用務員なんだがなとオヤジは自虐する。
「そうだ坊主、この短剣はどうだ」
エリオは既製品とは作りの違う短剣をオヤジから渡され、彼は革のナイフケースから短剣を取り出した。
黒光する短剣はまるで濡れてるような輝きを出し、中央に赤い線が一本走っていた。
「これ、すごいですよ。必殺技がついてます。“
「……そうか、すごいか」
「はい、Aランク武器です」
「Aランク! そうか、Aランクか……」
そう呟くと突然オヤジは声を出して笑った。その目には涙さえ溜めていた。
オヤジが渡した剣は鍛冶屋を辞め用務員として働きつつも自分で試行錯誤して作り出した一品だった。
鍛冶屋をしてた頃はCランクしか作れなかった、そんな自分がAランクを作れたのだから、今の彼は笑うしかなかったのだ。
「あの~」
大笑いするオヤジにエリオは短剣を返そうと差し出す。
「ああ、悪い悪い、あまりにもおかしくてな。あ~その短剣は坊主にやるよ」
「いいえ、こんな高価なものいただけませんよ」
Aランク武器は学生が買えるものではない。なにせ安くても一千万、高いものなら1億円をくだらないものがザラである。
親父の短剣は、短剣ということもありそれほどの金額ではないがスキル的に一千万の値はつくだろう。
それをくれると言うのだが、よほど面の皮が厚くないともらうことなどできる訳がなかった。
「いや、良いんだ。それは俺が作った物だし、鑑定する金もないしな、何より坊主は俺に希望を与えてくれたからな。まあ、鑑定料みたいなもんだ」
そういうとオヤジはエリオの腰に短剣のナイフケースを巻いた。
オヤジの希望とは鍛冶屋に再就職するという夢だった。鍛冶屋を辞めた者は
故に自分がどのくらいのランクの武器を作れるのかわからないのだ。
そしてAランクの武具を作れる今、鍛冶屋への再就職も夢ではないのだ。
結局、無言の圧力で短剣を押し付けるオヤジに負け、エリオは短剣をナイフケースにしまって深々と頭をさげ礼を言った。
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