第9話

「ねぇ! ねぇ! 入っても良い?」

「あ、待つて……」

 ミリアはエリオが何者なのか気になってはいたが、豪華なハウスの中が見たいと言う欲求には勝てずエリオが止めるのも聞かずにドアノブを握る。

 その瞬間、手がバチンと弾かれてヒャッと大きな声をあげて弾かれた右腕を摩った。

「何やってるんすかミリりん、早く入るっすよ」

 その言葉にミリアは何も答えずドアノブをじっと見る。

 ユウコも待ちきれずにドアノブを握った。

「アガがガガガ」

 ビカビカ光ってユウコはその場に倒れ込む。このハウスは敵からの攻撃を自動で反撃する。攻撃力が高ければ高いほど反射する力も強くなる。

 握る強さが強かったユウコのダメージが大きかったのは彼女が馬鹿力でドアノブを握ったからだった。

 当然ミリアが止めればいいのだが、私だけ痛い思いするの嫌じゃない? 仲間は痛みも分け合わないとねとユウコに言うと彼女はミリアの腕を取るとドアノブに触らせその上からギュッと握った。


 もちろん二人とも頭から湯気が出たのは言うまでもない。


「自動反撃システムがついてるから、勝手に触ると反撃されるんだよ」

 そう言うことは先に言って欲しいと思うミリアだったが、エリオが自分を止めようとしたのを思い出し、自分の軽率な行為を反省した。

 エリオはしょぼくれているミリアをよそにドアの横にあるパネルを操作して三人がハウスを自由に使えるように設定する。

 玄関にある監視カメラのようなものから赤いレーザー光線が出て三人を頭から爪先までなぞるように計測する。

 エリオが操作するパネルに登録完了の文字が現れ、三人がハウスを自由に使えることを伝える。


「これで入れるの?」

「うん、もう大丈夫だよ」

 エリオの許可が出るとミリアとユウコはハウスの中に雪崩れ込み二人を追いかけてエリオも後を追う。

 マリアは卑しいですことと言いつつ、みんなを追うように家の中へ入った。


 家の中は20畳ほどの広さでキッチンやトイレ、風呂は当然の如く完備してあり、テレビなどの娯楽施設なども用意されていた。

 お風呂は大浴場で五人以上一緒に入れるほど広く、トイレも温水洗浄機能付きで男女別に分かれていた。

 二階へ行く階段を登ると部屋が六つありその一つをミリアが開けて覗き見る。

「凄い、寮の部屋よりも良いわよ、これ」

 そういうとミリアはベッドにダイブした。高級な作りのベッドは激しく飛び乗ってもきしむことはなく、フカフカのフランシス製高級羽毛布団に包まれた。

 あたし、この部屋にするとミリアは勝手に自分の部屋を決め、ベッドの上で足をパタパタと動かしベッドの弾力を楽しんだ。

「いいよねエリオ」

「他の部屋もあるけどここでいいの?」

「うん、あたしここでいい、少し休憩したら下に行くね」

 ベッドに包まれたことで疲れがどっと出たのか動かなくなったミリアを残し、エリオは他のメンバーを別の部屋へと案内した。


「自分は和室がいいっすね」

「それなら一番奥の右側が良いかもしれないですね」

 その言葉を聞くとユウコはエリオが案内することもなく、一目散に最奥の部屋へと向かって部屋に飛び込んだ。

「いいじゃないっすか! これっすよ、これ!」

 部屋の中で大声で叫ぶユウコは顔を出しサムズアップすると部屋の引き戸をピシャリと閉め閉じこもった。


「……マリアさんはこっちの部屋を使うといいですよ」

 エリオは残されたマリアを他の部屋に案内する。

「すごく洗練されてて、清浄な神殿のような空気が漂ってますわね」

 部屋に入ったマリアはその神聖な空気に驚く。それは当然で、部屋の調度品は全てフランシス本土から取り寄せられた物で、それらは神聖術が施されている物だったのだ。


「ここを使ってた人はフランシス聖十字教の高位神官だった人ですから、信仰の力が上がるように調度品が配置されてるんですよ」

「わたくし、そう言うものに疎かったのでよく分からないのですよ」

 神官はみんな下積みをして、その時に調度品の置き方や配置、神への礼儀作法などをなどを叩き込まれる。

 マリアは王族であり聖女候補だったために下積みを経験していない、神への礼儀作法は学んでいても調度品などの設置などはすべて従者の者がおこなっていたのだ。


「あ、そうそう、フランシスさん。こっちにきてもらえますか」

 エリオは部屋の一角にある荘厳な扉を開けた。

 そこには同じサイズの部屋がもう一つあり、宗教的な調度品たちがマリアたちを迎え入れた。


「……これはフランシス十字聖教の祭壇ですか?」

「うん、回復は重要だから、部屋を二つ使ってもらってたんだ」

「そうなんですか。……あの神にお祈りを捧げてもよろしいでしょうか?」

「うん、みんなには言っておくから好なだけ使ってください」

「ありがとうございます」

 

  そう言うとマリアはすぐさま神への祈りを捧げ始めた。エリオはマリアを残し部屋を出て他の二人を探しに行った。

 各部屋を開けるとユウコは和室の部屋を見つけ畳でゴロゴロところがり唸っており、ミリアはベッドで仰向けになって背中をひくつかせていた。

 少し嗚咽が聞こえ、エリオはそっと扉を閉じ一階へと戻った。


 エリオは皆の気持ちが落ち着くまで備品や食料のチェックをおこなうことにした。

 食料は地下倉庫に保存してあった。

 この倉庫に入れた物は腐らない。すべて2年以上前の備蓄品だったが、鮮度はまったく落ちていないかった。

 そんな食品を見て不思議なものだなとエリオはそれらを手に取って首を傾げた。


 エリオは前に使った・・・ときの食事の消費量と三人の食事の消費量を予測しておおよそ四十日分はあると言う計算を導き出した。

 地下から出るとミリアとユウコが戻ってきており、深刻そうな顔をして話し合っていた。


「あれ、エリオ、マリアは?」

「うん、今、部屋でお祈りしてるよ」

 エリオはそう言うと、当たり前のようにキッチンに立ち、ティーカップを用意して倉庫から持ってきた紅茶の缶を開けてフレンチプレスというガラスの筒の中に茶葉を入れ、お湯を注ぐと茶葉を踊らせた。

 レモンをスライスして小皿に置くと、それらをお盆に乗せ二人のいるテーブルへと運んだ。

 フレンチプレスから二つのティーカップに紅茶を注ぐと二人の前に置く。


「どうぞ」


「ありがとう」

「あざっす!」


 それぞれティーカップを受けとると、ミリアはレモンを入れず角砂糖を一つだけ入れてスプーンでかき回さずにそのまま飲み始めた。

 面白いの見方をするなと思ったのが分かったのかミリアは笑いながら言う

 こうすると甘さが飲むたびに変わって楽しいのよと。


 ユウコはレモンを三枚入れて角砂糖を30個入れた。


「か、川上さんはずいぶん甘党なんですね」 

「戦士っすからね!」

 などと意味不明な受け答えをして、シロップ状になった紅茶をスプーンですくいおいしそう舐めていた。

 それを見てエリオはなぜか虫歯一本ない歯がムズムズするのだった。

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