第18話 変な魔法と召喚魔法

 エリオは同じステータス表を前に悩むみんなに職業の基本説明をした。もちろん授業で習ってはいるがおさらいも兼ねてだ。


 戦士は剣技ソード・アーツを使用するときにはSPを消費する。そしてステータスも筋力系が上がりやすい。

 逆に魔法使いは魔法を使用するときにMPを使用する。そして知識系のステータスが上がりやすいのだ。

 当然、戦士にはMPが無い、それは魔法を使う必要がない故に持つ必要が無いからだ。それと同じように魔法使いにもSPが無い。


 だが戦士のユウコにはMPが存在し、魔法使いのミリアにはSPが存在した。それもかなり高い数値で。

 

「多分、2人をロープで繋いでいたせいで、二人を一人とシステム世界が認識してしまったのかもしれないです」

「そんなことってあるの?」

「神話の時代、魔法の使える戦士や、近接戦を得意とする魔法使いがいたと言う話が文献に残っているので、あるいはミリアさんたちと同じことをした人たちが過去にいたのかもしれないですね」


「つまり、あたしは近接魔法使い、ユウコは魔法の使える戦士になったと言うこと?」

「はい、そう言うことです」

「それって強いの?」

「……分からないです、なにせ伝説の存在なので」

「そっか、伝説か……。伝説になるくらいだからきっと強いんだよ」

「そうっすね、なんか面白そうっす!」


 エリオは山下との戦いで見せたミリアの動きを思い出す。魔法使いなのに武闘家と遜色のない動きを見せたミリアの動きを。

 実際、あの杖術と、このステータスがあれば世界屈指の魔法使いになるだろうとエリオは予測した。


「ただ、レベルと言うのは補正値なので有栖川さんは近接戦闘では川上さんに劣りますし、川上さんの場合は同じ魔法でも有栖川さんに劣ります」

「ちょっと使ってみても良いっすかね?」


 ユウコは使えないはずの魔法が使えることで、試し撃ちをしたくてウズウズしていた。

 例えば、それは魔法のない世界から魔法がある世界へ転生したかのような気持ちなのだろう。


「戦いの疲れはないですか?」

「ないっすよ、止まってる魔物を殴ってるだけっすから」


 筋肉断絶するまで筋肉を酷使したと言うにユウコはまったく疲れていないと言う。回復呪文では疲労は回復しない、むしろ同じダメージの痛みが伴うため疲労は溜まるのだ。

 

「……すごい体力ですね。じゃあ、ちょっと、やってみますか?」

「やるっす! やるっす! やるっすよ!」


 今にも呪文を唱えそうなユウコをなんとか止めてマリアのステータスチェックをしてからとエリオは言うが彼女はユウコに魔法を撃つチャンスを譲った。

 二人がどのように変わったのか見てみたいとマリアは言うのだ。


 そして三人は地下室へ向かった。エリオは前回使ったカカシを標的にして、そこから10mほど離れた場所にみんなを立たせた。


「それじゃあの的に魔法を撃ってください」

「おっけーっす! それじゃ自分から行くっすね。あ、魔法ってどれっすかね?」

「あ、ごめん、ファイヤーフォックスが火魔法です」

「わかったっす」


 ユウコは大剣を抜いて正中線に構え、数回呼吸をした。

 沈黙が流れ皆が緊張の眼差しを向ける中、ユウコが呪文を唱えた。


 「“ファイヤーフォックス”」


 大剣の切っ先から紅蓮の炎が現れ、大剣の周囲を渦を巻き切先に集まると球体に燃え上がった。


「ええと、これ、どうするっすか、剣の先についたまんまっすよ!」


 まるでマリアのレイライのように切先で球体になる炎を見てエリオは首を傾げる。通常のファイヤーフォックスは火炎放射器のような技なのだ。

 マリアの特性がユウコにも添加されているのかもしれないと彼は思ったが、レイライと違い、ファイヤーフォックスを使うためのレベルは足りている。つまり、彼女はただ魔法の使い方がわからないだけなのである。


「川上さん、思考でコントロールするんですよ。当てたい場所を睨見つけてぶっ倒してやるっす!みたいな感じっす!」

「わ、わかったっす!」


 エリオがまた自分の真似をしてとイラッとしたが、今は魔法をつかう方が大事なので許すことにした。

 大剣の切っ先を下げ、自身の後方に回すと標的を見やすいようにした。炎の揺らぎで前方が見にくくなっていたためだ。


 彼女は標的の中心をじっと睨みつけ剣を振るう。魔法使いも魔法を使うとき杖を振るう彼女は本能でそれを察したのだ。


 恐ろしい子……。


 とは言え、実際は集中するだけで飛ぶのだが、この方法の方が威力が上がると言う学術書もあるのでエリオはその動作には何も言わなかった。


 剣から放たれた炎の球体は弾丸のように回転をすると、細長い槍のようになり、周囲を炎の帯がドリルのように渦巻く。

 炎のドリルが標的に突き刺さり、マネキンを突き破り一瞬で黒ずみになった。

 炎のドリルはマネキンでは止まらず更に突進していく、激突寸前、家神様マリベルが現れてその炎のドリルを殴って消滅させた。


『家に、傷つけたら許さない』


 マリベルはエリオに向かい顔をむくれさせる。彼は片手でごめんと謝るが、ユウコの魔法が意味不明すぎて頭を悩ませていた。


「う~ん、なんだこの魔法?」

「エリオ、何か変なの?」

「あ、うん、魔法が途中で変化したでしょ。途中で変化する魔法なんて聞いたことないですよ」

「そうなの?」

 

 魔法は精密な工業機械であるとは、魔術の始祖アグレイ・ブラストリーの言葉である。魔法は緻密な術式で編まれており、術者が勝手に形状を変えることなどできない。


「うん、有栖川さんが魔法を撃ってみればわかるよ」

「よし、なら私の番ね」


 ミリア意気揚々と白線の前に立つと燃えかすになったマネキンが消え、新たなマネキンが現れた。


「“ファイヤーフォックス“!」


 ミリアの呪文で、彼女の後方に狐火を三つ携えた炎の狐が現れた。


「「「!?」」」


 炎の狐に全員が全員驚愕する。呪文を唱えたミリアでさえ一瞬何が起こったのかわからなかった。

 だが、炎の狐と意思疎通ができ、それが召喚魔法だとわかったミリアは炎の狐に命令する。


「ええと、やっちゃって?」


 ミリアの命令を受けると、まるで吠えるように唸り声を上げ周囲の狐火からまるでマシンガンのように火球が打ち出された。

 当然、マネキンは一瞬で灰になりか級はマリベルの待つ壁に向かい飛ぶ。マリベルは超高速の動きで火球を打ち壊す。


「ストップ、ストップ!」


 エリオはあまりの炎の激しさ部屋の温度が急激に上がるのを感じミリアにストップをかけた。正直、彼がストップをかけなければ部屋全体が溶鉱炉のような状態になっただろう。


「ごめーん、あんまりにもすごくて止めるの忘れてた」

「それは良いんだけど、いや良く無いけど……有栖川さんMPの消費は?今のどう考えても今持ってるMP以上に消費してるみたいだけど」

「う~ん、それが、この子って召喚獣みたいなの」

「魔法じゃなくて?」

「うん」


 召喚獣とは魔力の根源より生まれ出し魔法生物である。魔力の塊である彼らのMPは召喚したMP×レベルであり、攻撃力は術者の知力×レベルなのである。


 つまり、レベルが上がれば上がるほど使える魔力と攻撃力が膨大に増える。

 それ故、召喚獣を使える魔法使いは一国の勇騎士ブレイズナー師団と対等、または凌駕するとも言われるほど強いのだ。


 現状、召喚獣を使えるのは大魔道士、グラリスホッパーと七大神官エリル・アルヌールの勇者チームに在籍していた二人だけなのである。


「つまり、あたしって勇者チームの人と同じなの?」

「……いや、同じじゃないよ、人類初だねファイヤーフォックスを召喚した人は」

「本当に!」

「うん、文献には載っていない」

「やった!」


 喜ぶミリアを横目に見ながらエリオは考える、マリアが言っていた女神の啓示を、“勇気オーデライト希望パンディアはいつもあなたの側にある“と言う言葉を。

 だとしたら、ミリアの変化はしごく当然なことなのだと。


「なんで、見捨ててくれないんだ……」


 エリオがボソリと呟いた言葉の意味をマリアは瞬時に理解した。それは彼女だけが知るエリオの秘密だったから。

 

「でも、これで狛犬ケルベロス倒せるんじゃない?」

「そうっすね、これだけの力があれば勇者チームのように、ここを突破できるっすよ」

「あ、言い忘れてたけど先に吽形の狛犬ケルベロスを倒すと阿形の狛犬ケルベロスはステータスが10倍になるからね」

「なんっすかそれ嫌がらせっすか」

「ちなみに、火の攻撃は狛犬ケルベロスは軽減します、火属性なので」

「だよね、新魔法が火属性の魔法だったからそうだと思ったわ」


 通常レベルアップ時に覚える魔法やスキルは敵やダンジョンに影響される。火属性の魔物なら火の魔法、ドラゴンが出てくるダンジョンならドラゴン特攻などだ。

 つまり、火魔法を手に入れたと言うことは狛犬ケルベロスは火属性という証明だったのだ。


「じゃあ、一騎当千も火関係なんっすか?」

「いいえ、一騎当千は黄泉ヨミダンジョンの特性で、魂に関係するものです。敵の数だけステータスに+10修正が入る技で敵を倒すか逃げるまで持続されます。レベル差が著しく大きく開いた敵を倒した時に手に入ると言われてます」


狛犬ケルベロス二体で+20か、それでも結構な修正値よね」

「ですね、今は少しでも安全に倒したいですから+20はありがたいです」


「で、+1でどのくらい強くなるんっすか?」

「もう、ユウコ、授業でやったでしょ」

「でしたっけ? 自分寝てて聞いてなかったっす」

「元の力で変わるのよ、元の力が100なら+1で10%アップで110、50なら+1で5%アップで2.5補正だから四捨五入で3ね、つまり53よ」

「ん?つまりどのくらいっすか?」

「……」


「つまり、元の数値がわからないと答え合わせができないってことだね。生徒手帳に入学時の測定ステータスがあるはずだけど」

「書いてあるけど、握力とか跳躍力っすよ」

「うん、腕力は筋力に対する補正値だから、その数値を元にすれば大丈夫だよ」

「まじっすか! 自分握力100っすよ、つまりいくつっすか?」

「あ、うん、腕力+25だから握力250ですね」

「やば! ゴリラっすか、自分ゴリラっすよね!」


「ゴリラの握力は500kgと言われてますので全然足りないですね」

「まじっすか!? ならもっとレベル上げるっすよ、ゴリラに勝つっすよ!」


「私たちの敵は魔物でしょ、ゴリラと戦ってどうするのよ」

「まあ、ゴリラ型魔物のゴーキンに勝つと言う目標でいいんじゃ無いかな」

「そんなのいるっすか? じゃあそいつに勝つっすよ」

「まあ、そいつの握力は 1トンですけどね」

「まじっすか……。やるしか無いっすね!」

 ユウコは拳をぎゅっと握りしめ決意を新たにする。そんな彼女を見てミリア達は呆れ、どこまで脳筋になるのか心配するのだった。

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勇騎士学園の臆病者 ~臆病者と落ちこぼれ三人娘のダンジョン奮闘記~ 白濁壺 @white_pot

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