★★★ Excellent!!!
美しい自然に彩られた幻想の昔話 和田島イサキ
山に住まう野分(風の一種)が、捨てられた人間の子を拾うお話。
昔話です。と、そう言い切ってしまうとちょっと語弊がある(というか人によってイメージが違いそうな)気がしなくもないのですけれど、でも個人的には昔話してる物語。おとぎ話とか童話と言ってもいいのかもしれませんけれど、でもどことなく和風な絵面というか、全体を通じてひしひし伝わる古代日本的なイメージが、まさに「昔話!」という印象です(伝われ)。
圧倒されました。何にかは正直わかりません。たぶん細かく散りばめられたいろいろなものに、というのが正確だと思うのですけれど、とりあえずその〝いろいろ〟の内のひとつとして、自然の描写の際立ち方がもうえげつないことになっていました。そういうお話、というかこれだけのパワー溢れる自然の描き方ができればこその物語だというのはわかるのですけれど、それにしたってとんでもない鮮やかさです。あまりにも彩り豊かなこの語彙力と表現力。なんだか文字使って絵を描いてるような感じ。
この表現力があればこそのお話、というのはまさにお話の筋や設定からもわかる通り。なにしろ主人公からして野分、すなわち擬人化された風そのものであり、他にもお天道様がいたり長老は熊だったりと、ここでは自然が人格を持って生活しています。ただいるだけでなく「生活している」というのがはっきりわかる描かれ方で、物語の舞台となる〝山〟は彼らの共同…
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