いつか野分の吹くところ

作者 神崎 ひなた

72

25人が評価しました

★で称える

レビューを書く

★★★ Excellent!!!

 山に住まう野分(風の一種)が、捨てられた人間の子を拾うお話。
 昔話です。と、そう言い切ってしまうとちょっと語弊がある(というか人によってイメージが違いそうな)気がしなくもないのですけれど、でも個人的には昔話してる物語。おとぎ話とか童話と言ってもいいのかもしれませんけれど、でもどことなく和風な絵面というか、全体を通じてひしひし伝わる古代日本的なイメージが、まさに「昔話!」という印象です(伝われ)。
 圧倒されました。何にかは正直わかりません。たぶん細かく散りばめられたいろいろなものに、というのが正確だと思うのですけれど、とりあえずその〝いろいろ〟の内のひとつとして、自然の描写の際立ち方がもうえげつないことになっていました。そういうお話、というかこれだけのパワー溢れる自然の描き方ができればこその物語だというのはわかるのですけれど、それにしたってとんでもない鮮やかさです。あまりにも彩り豊かなこの語彙力と表現力。なんだか文字使って絵を描いてるような感じ。
 この表現力があればこそのお話、というのはまさにお話の筋や設定からもわかる通り。なにしろ主人公からして野分、すなわち擬人化された風そのものであり、他にもお天道様がいたり長老は熊だったりと、ここでは自然が人格を持って生活しています。ただいるだけでなく「生活している」というのがはっきりわかる描かれ方で、物語の舞台となる〝山〟は彼らの共同社会として機能しており、そして社会である以上そこには守るべきしきたりがあります。
 物語としてはあくまで昔話(おとぎ話)、故に彼らはただ擬人化されただけの自然そのものと読むべきだと思いますが、でもそれ以外の解釈もできそうなのが面白いところ。伝承の中で擬人化される自然、神格化された存在(とそこにまつろうもの)はだいたい異民族のような存在だったりするとかしないとか、例えば狼の鳴き声の音韻表現なんかは露… 続きを読む

★★ Very Good!!

子供の頃いつか読んだような、聞かされたような、まんが日本昔話のような懐かしさを感じる一遍です。寓話としてとらえてあえて教訓を引き出すこともできるでしょうが、単純におとぎ話として楽しめました。
季節感を表す彩の描写が美しく、作者らしさがあふれていると思います。

★★★ Excellent!!!

人間が神様を求めるように、神様も人間を求める。これは「信仰」という名の共依存であり、お互いの存在理由の一つなんだなと思いました。だからナギには野分がなくてはならない、その逆もまた同様で結末の説得力に繋がるのだなと。ただこれは個人的な思いですけど一度山を離れたナギが野分の感情だけに救われてしまうのがカタルシスが些か弱い(或いは軽い)気がしました。ナギが許されるのは理由が純朴な願いであること、山を離れたのは一度であるけれどナギ自身が二度捨てられてしまうので対価は成立することとして理屈はつくのですが、もっと別離が大きな意味を持つ流れであれば感情は更に揺さぶられたと思います。
好きなように申しましたが個々の場面は美しく、中盤で野分が憤怒し落胆するまでの流れはディズニーアニメのような雰囲気が伝わってきて感動しました。ひなたさんの言葉えらびはとにかく綺麗でファンタジーとの親和性が抜群です。童話と捉えると対象年齢は高めだけど幼い頃に読んでも意味以外のところでも得るものに溢れていると思います。