いつか野分の吹くところ

神崎 ひなた

第1話

 さぁ、向こうの山からいよいよお天道てんとうさまが「ぐわっ」と顔をのぞかせますと、あたりをおごそかに照らし出されました。

 しんとした山中にそびえ立つ木々には、体を小さくすぼめた小鳥の群れが、まだ微睡まどろみの中におりました。しかし枝葉の影から暖かな木漏こもが差し込んで来ますと、ちぴちぴと一匹、またちぴちぴと一匹とさえずりながら、ばっと羽を震せるのでした。

 小鳥がざわざわ騒ぎだすと、熊の長老は洞窟からのっそのっそといずり出てきて、じっと目を細めながらお天道さまを見つめます。

 そうして「おおーーん」とひときわ甲高い声で鳴きますと、それが山中に響き渡って、生き物たちは目を覚まします。そうして、山の一日が始まるのです。


 これは、まだ誰も知らない山々が、そんな風につらなっていた頃のお話です。

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