もういちど ゆびさき に きす 

Clumsy Love

 高校の同窓会で再会した元彼。

若かったふたりは、些細なケンカが原因で別れた。

もう思い出すことすらできないような、些細なきっかけ。

上手く自分の想いを伝えることができなかった、不器用な恋。


「久しぶり……だね」


 久しぶりに会った彼の薬指には銀色の指輪が光る。


「結婚……したんだ?」


「ああ、今度子どもも産まれる」


 良かった、と心から思えた。

あれからいくつか恋をした。

それでも、ずっと心に残っていた淡い不器用な初恋。

大人になった今なら思う。

もっと上手な付き合い方ができたはずだ。

あの頃の精一杯で一生懸命、恋した。

結局、ダメになったけれど忘れられない初めての恋。


「あの時、別れなかったら。俺たちどうなってたかな」


「……じゃあ、確かめてみる?」


 そう言うと私は彼の手を取り引き寄せる。

座っていた私に覆いかぶさるような体勢になった彼の頬に手を伸ばした。

視線があう。

あの頃と同じ真っ直ぐな瞳。

唇が触れそうになった刹那、彼は私の両肩を強く押した。

彼自身、自分の行動に驚いたようだ。

私の両肩を掴んだまま、動けないでいる。


「それが答えだよ」


 私は笑う。

気づいていた。

今の彼が私に向けているのは恋愛感情じゃない。

ただの同情だ。

自分の感情にも気づかない不器用さは今でも変わらない。


「一時的な感傷に囚われちゃだめ」


 近くて遠い、ふたりの間。

それはもう埋まることはない。


「でも……俺は、お前のことちゃんと好きだったよ」


「私もだよ」


 その言葉だけで十分。

前へ進んでいける。


「私も今度結婚するんだ」


「そっか……幸せにな」


 もう一度、視線が合う。

今度はふたり、穏やかに笑う。

今は別の道を歩くふたり。

再び交わることはない。


 それでもあの不器用な恋は必要だった。

あの頃があったからこそ今の幸せがある。

大切な人、今はただお互い幸せに――。

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ゆびさき に きす 結羽 @yu_uy0315

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