ゆびさき に きす

結羽

ゆびさき に きす

これを人は恋という

「先生、愛と恋との違いって何?」


 私はさっきからやっていたプリントから顔を上げて、監督している現国教師の顔を見た。


「プリントはもう出来たのか?」


 私は今、現国の補習中。

放課後の教室に先生と2人きり。

先生が好きな私にとって絶好のチャンスだ。


「うーっ! まだだけどさぁ」


「じゃあ、さっさとやれ」


 本当ににべもない。

でも、このつれなさが好き。


「いいじゃん。生徒の質問に答えるのも、先生の仕事でしょ?」


 先生は面倒臭そうに私を見た。


「『愛』は大切に思う、暖かい感情。人をしたう心。異性をしたう心。『恋』は相手を自分のものにしたいと思う愛情をいだくこと。」


 まるで辞書でも読み上げたような返答だった。


「つまり恋は1人でも出来るが、愛は相手がいてこそのものだと俺は思うがな」


私はそっとプリントに視線を落とす。

小さく呟いた。


「……じゃあ、私のこの気持ちも恋なのかなぁ」


 だって、全然伝わってないし。

ため息をついてプリントの続きにに取り掛かろうとした時、キュッと顎を掴まれて上を向かされた。

思いのほか、近くにいた先生と視線が合う。

目が逸らせない。

ドキドキと心臓が高鳴っている。


「恋でもいいんじゃねぇの? 『愛』は真心。『恋』は下心とも言うしな」


 目の前でそう言うと、先生は私に軽くキスした。

呆然としている私を置いて教室を出ていく。


 下校の鐘が鳴り響いた。

それを合図に私は先生の後を追った。

これが私と先生の『愛』の始まり。

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