強さは優しさ――ぼろぼろなヒロインの奮闘物語!

狼とヒトの姿を行き来できる者たちが、狩猟で生計をたてる村。狼としての強さこそがすべてというその村で唯一、狼になれない者がいました。美しい銀の髪と整った容姿をもち、そしてそれ以外にはなにも持っていないその者の名は、レティリエ。清らかな心を持つ優しい女性ですが、狩りでまったく貢献できない彼女はいつも村の爪弾き者でした。

しかも彼女が密かな憧れを抱いている相手は、村一番の狩りの腕をもつ雄狼、グレイル。幼なじみである彼でしたが、背負う期待値の違いから時を経るごとにレティリエとの距離が開いていきます。彼と「つがい」にはなれないと恋心を必死に押しつぶすレティリエでしたが、ある事件をきっかけにして彼女の運命が変わりはじめました。

たくさんの障害につまずきながらも、閉じた世界を抜け出したレティリエ。彼女は狼の村にはなかった価値観を知り、自分ができる仕事を見つけ、自らの存在を少しずつ高めていきます。そして他の狼たちには到底やり遂げられないだろうという計画にさえ、その聡明な頭脳をもって果敢に挑んでいくのです。

彼女の武器は前述のとおり、優秀な知性。その場の状況をよく観察し、他人の心理を的確に見抜き困難を突破する手腕は鮮やかであり、爽快です。助けを待つだけのヒロインではないその強さには驚かされます。

けれど私が彼女の本当に強い部分だと思う点は、その「優しさ」です。自身が被ってきた屈辱を抜きにして(ここがもう既にすごいのですけど)、まず相手の身の安全や心の安らぎを考えてあげること。彼女自身が辛い局面に立たされ続けてきたからこそ、他人が受ける痛みをよく理解しているのかもしれません。

正直「今だ、仕返ししてやれ!」と思ってしまうシーンも少なくはありません。「これほど苦しんだのだから、見捨ててしまってもいいじゃないか」とささやきたくなる場面も。けれどやはり彼女は穏やかに微笑み、高潔な精神を保ったまま救いの手を差し伸べるのです。見返りも求めず、自身はひどく傷ついたままで。

苦難の上にまた苦難という雪が降り積もり、次第に状況は絶望的なものへと変わっていきます。人間の世界でなんとか身を守りながら生き抜くレティリエと、彼女を助けたいものの立場や重責に阻まれるグレイル。村にいても結ばれることはなかっただろうその細く赤い系は、身勝手な人間たちによってさらに踏みつけられ、ぼろぼろになっていくのです。

また、立ち塞がる人社会という強大な敵に加えて、自身の恋を続けてもいいのかという問題にレティリエはひどく悩まされます。好きでいることすらも認められなかったという村の価値観は根深く、若い狼たちを苦しめます。その楔を断ち切り、離れ離れの二人が互いに行動を起こす流れは見事で、ぐいぐいと読まされる力を感じました。

ストーリーに障害はつきもの、そしてそれを乗り越えた先にある幸せを見たい!という方は必見の、美しくも骨太な物語。続編もあるとのこと、まだまだ楽しみが尽きないと思うと嬉しいかぎりです♪

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