白銀の変身物語

狩猟で生計を立てる人狼の村。人から狼へ、狼から人へ、自由に変身できる彼らにとっては、その身の強靱さこそが価値の基準だ。
その点、主人公である銀狼のレティリエは特殊な立場に置かれていた。確かに人狼であるはずなのに、狼になれないのだ。狩りで役に立てない彼女は、村では肩身の狭い思いをしている。
輪を掛けて辛いのは、彼女が恋する相手グレイルが村でも一二を争う強者であるため、その結婚相手もまた強者でなければならないこと。つまり、レティリエはグレイルの結婚相手に相応しくない。自分の想いを告げることも叶わない。そんな逆境に晒されているのが、レティリエという少女だ。
しかし、レティリエは本当に価値のない少女なのか?
視点を外部に移してみると、なんとも残忍な事実が明らかになる。銀狼のレティリエは人間たちにとって比類のない美しさを誇っており、その商品価値は決して見逃せないものだった。いずれその魔の手は彼女の身に及ぶだろう。
かくしてレティリエの厳しく困難な物語が幕を開ける。

彼女の助けとなるのは、想い人にして幼馴染みのグレイル。そして、彼女自身の機転と優しさ。彼女の精神は、狼の肉体に劣らず強靭だった。そのことが明らかになるのは、皮肉にも絶体絶命の状況においてだ。
レティリエの肉体は変身できない。しかしその精神は物語を通して強く逞しく変貌していく。
これは、表面上変身できない少女が真実の変身を遂げて、その高潔な心に相応しい幸せを勝ち取るまでの物語。
忘れがたい、白銀の変身物語。

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