その重さを推進力にかえて

生きていると必然的に背負うことになる重み。主人公の巽は、家族を失った過去を引きずりながらも長距離トラックのドライバーとして日々の仕事をこなしていた。
そんな日常を鮮やかに打ち破ることになったのが、謎の美女サイカとの出会い。道端で立ち往生していた彼女を助けた巽だが、サイカが自動修理キットと称して積み込んだケースの中にはアトリという少年が閉じこめられていた。巽はサイカに拳銃をつきつけられ、彼女たちを北九州まで運ぶよう命令される……。

人攫いの片棒を担がされるのかと思いきや、事態はそれより複雑で。彼女たちには追っ手がいたのだ。銃撃戦だとかカーチェイスだとか、ハリウッドのアクション映画さながらの危険を潜り抜けるうちに、巽はサイカとアトリを救いたいと願うようになる。それはある意味では巽を過去の呪縛から解き放ち、〈いま〉を生きるために背負う、新しく掛け替えのない重み、すなわち、積荷なのだった。
巽のようなトラック野郎は、積荷がなければ生きていけない。重さは悪ではない。そして、積荷のあるときにこそ、巽は、トラックは、前に進むのだ。

四十路のおじさんが逞しい肉体と精神力と人生経験を武器にして戦う近未来SF。映画的な物語の起伏、迫力のアクション描写、淑やかなロマンス、と押さえておきたいポイントをズバリと押さえながらもクリシェに陥らないのは、ひとえに作家の筆力のなせる業。キレのよい台詞、テンポのよい叙述、固められた設定、綾のある人物造型。この作品は映画の真似事ではなく、映画ではできないディテールを巧みに織り込んだ〈映画的な〉小説として成立している。

練りに練られた作品を安心して読みたい、深い主題にひたりたい、けどワクワクドキドキもしたい、そんな贅沢なあなたに是非お薦めしたい逸品です。

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