第21話 二人の妹
「うそ……本気で言ってるの?」
「ま、まあ……冗談で言う話では無いから」
翌日俺は梢を連れて楓と3人で喫茶店に入り楓に事情を説明する。
殆んど梢と同じ説明を楓にすると、やはり楓はかなり戸惑っていた。
そりゃそうだ、俺からいきなり前世の話を聞かされているのだから。
「梢さんは……本気なの? 本気で妹になるの?」
「ええ、勿論よ、好きな人の言葉を信じられないようでは……ね」
「──くっ……」
髪をかき上げ、お嬢様の風格と年上の余裕を見せる梢……年上の妹……。
自分でも言ってる事がわかっていない。
まるで、SFのタイムパラドックスに陥った主人公の様だった。
「……それで、貴女はどうする?」
「そ、そんなの決まってるじゃない、私だって信じる……お、お兄ちゃんの事を信じる……よ」
「……はい決まりね、じゃあ、私達は今から3人兄妹って事で宜しくて?」
「も、勿論……よ」
「いや、しゃべり方まで似せなくても……」
梢のお嬢様風のしゃべり方に楓が引っ張られる。
「……そ、それにしても……百歩譲って前世で兄妹だったって言う事は信じるとして、私がこの女と同一人物だったなんて言われても……にわかには信じられないんですけど……」
「……そうね、私がこんなチンチクリンと同一人物だったなんて、ちょっとねえ、ふふふ」
「ち! 何よ! ちょっと私よりおっぱい大きいだけでしょ! って言うか良いもの食べ過ぎてお腹も出てるんじゃない!」
「ひうう! 人が気にしてい……、いえ、これくらい今時普通よ、最近ではモデルの方も少しふくよかじゃないといけない時代、私がよく行くコレクションのモデルの方達も最近は痩せすぎはいけないって言われているのよ? ガリガリで貧相な身体の貴女は時代にそぐわないのでは? もう少しお太りになられた方が殿方に人気も出ますわよ?」
「ふん! いいの! 私はお兄ちゃんだけで! ねえお兄ちゃん痩せてる娘の方が好きだよね?」
「あら、お兄様は女性らしい身体が好みですわよね? このご時世、よもやこんなお子様体型の方が言いなんて事、無いですわよね?」
そう言って二人が同時に俺を睨む……って言うか……。
「いや……それより、二人とも……普通に俺の事……兄って言ってるんだけど、もう慣れたのか?」
二人が自然過ぎて……話どころじゃなかった。
「……あれ? そういえば……」
「……あら、そうですわね?」
勿論俺には全く違和感は無い……そりゃそうだ、俺は端から二人を妹として認識しているのだから、でも、二人は……。
そして俺は思った。ひょっとして……二人も前世の記憶を取り戻し始めているのかも知れないと……。
お互い不思議そうに顔を見合わせている。
赤い髪と黒い髪、髪の色は違う、体型も違う、年齢も違う……でも……やっぱり似ている。
二人の顔は……似すぎている。
そして……俺には一つだけ不安があった。
このまま前世の記憶が甦ったとして、俺はいい、俺は前世に何があったか知るだけ……でも、二人は……二人は同一人物だったのだ……。
今はいい、今は別々の人生を歩んでいるのだから……でも、前世の記憶を取り戻したら……二人はどうなってしまうのだろうか?
同じ前世の記憶を持つ二人……このまま行っても、3人でこの先に進んで……いいのだろうか?
一抹の不安が俺の心をよぎっていた。
前世に妹だった後輩(と先輩)から告白されたんだが、前世が見える俺はどうすれば良いのだろうか? 新名天生 @Niinaamesyou
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