第19話 君は俺の妹
まだ春先、夏にはスモッグで霞む空も今は気温が低い為にか、窓からの景色はかなり遠くまで見渡せる。
「富士山がはっきり見えるわね」
窓から望む東京の景色を感動しながら見ていると、梢はコップに水を入れ俺に渡し、そのまま横に並んで一緒に窓の前に立つ。
俺達はそっと寄り添うように、一緒に景色を眺めている。
そして暫くして梢がさらに距離を縮め、俺に寄りかかって来たその時……辺りが一瞬にして暗くなった。
昼の東京から一転、目の前に夜景がきらびやかな景色が広がる。
ここは……どこだ? さっき迄の風景とは全く違う……都内じゃない? ホテルではなく山の上にいる?
そして隣には梢ではなく、楓がいる?
いや違う、微妙に顔が……そう、顔は梢、でも髪の色は赤かった。
つまり、今見ているこの景色は……前世での映像か? ……俺は今前世で妹と夜景を眺めている。
そして隣にいる妹が俺に向かって声を荒げて言った。
「何で……何でお兄ちゃんなの?!」
「仕方ないよ、それが運命なんだから……」
「お兄ちゃんはそれで良いの? 私は……嫌、嫌だよ!」
「……でも、どうする事も……」
「だったら……」
鮮明な景色、はっきり聞こえる妹の声、これは前世の記憶か……この会話は一体……妹は一体。
「ふふふ……手繋いじゃった」
梢のそのセリフで、自分の意識が現世に戻る。
今手を繋いでいる。やはりそうだ……梢や楓と接触する度に、前世の記憶がどんどんと甦る。それも今までになくはっきりと……。
「……もう、ここは優しくキスで私の告白の返事をするシーンでしょ?」
「…………」
冗談っぽくそう言われ、俺は……梢をギュっと抱き締めた。
「ふえ!」
梢は俺の胸で変な声を出す。
告白の答え、それはNoだ。
でもそれは妹だからって意味ではない。
付き合うとかもうそういう段階ではない……俺は前世の俺を、妹達を解放しなければいけない……それが現世での義務なのだろう……。
さっきのセリフ……俺と妹の間に間違いなく何かあった。
そして、現世の俺の前に妹が現れた意味、俺に告白してきた意味。
これはもう……俺だけの問題じゃない……。
「梢さん……聞いて欲しい……」
「……は、はい!」
俺に抱き締められながら、梢は上目遣いで俺を見る。
真っ赤な顔、潤んだ瞳……今までは妹として見ていた、いや……今でもそうだ。
でも、でも俺の中で少しだけ、ほんの少しだけ火が灯ったような気がした。
世の中にいる妹好きを公言している、変態の気持ちが、今ならほんの少しだけわかる気がする。
だから、言う、今までに誰にも言ったことは無い俺の事を、俺のこの力を彼女に……。
そして、彼女と、彼女達と一緒に、これからどうすればいいか、考えよう……一緒に考えよう。
出来る筈だ。だって彼女達は……俺の、妹なのだから。
「梢さん……いや梢……聞いて欲しい」
「は、はい!」
梢の期待に満ちた顔、キラキラと光る瞳を見ながら、俺は……勇気を出して言った。
「梢……君は……俺の……妹なんだ! 前世で妹だったんだ!」
「……………………は?」
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