第18話 資産家の妹

 梢の父親はいくつもの事業を手掛け、母親は全国展開している美容室のオーナーだそうだ。

 両親共に全国飛び回っており、家には殆んど帰って来ないとか……。


「本当に髪のせいなのか?」

 両親仲違い、そして梢に無関心になった理由を再度訪ねる。


「きっかけに過ぎないけどねえ、元々父は若い頃から母に仕事を辞めろって言ってたみたい、でもそれに反して母は自分のお店をどんどん大きく展開させて行ったのを良く思ってなかったみたいね。

芸能界や、色んな人と広く交遊してたから、私がこの髪で生まれた時、やっぱりって思ったんじゃないかなあ」

 長い黒髪を触りながら、梢は笑った。


「それでもわざわざ染める必要は……」


「うーーん、まあ染めるめんどくささよりも、髪の事を、地毛だって度々言う方がめんどくさいってのもあったかなあ? ほら、母の仕事が美容室の経営でしょ? 髪に関しては全部ただだしねえ」


「……お金に不自由してないんじゃなかったっけ?」

 

「そうねえ、このレストランも父の経営だし、このホテル内にも母の美容室はあるし、まあ染めるのは面倒じゃ無いかなあ」


「……そか……でも、ここもって、とんでもねえな……」

 きらびやかな店内、洗練された料理、丁寧な接客店どれを取っても超一流で、非の打ち所の無いレストランだ。


「あと、あとね……良かったらなんだけど、これからお部屋見に来ない?」


「うん? 部屋?」


「そう最上階のスイートルーム、景色が凄いの、景色を見ながらお話の続きなんてどうかな? って、ルームサービスも頼めるし」


「いや、もう何も入らないよ……でも俺ももう少し話はしたいかな」


「本当に?! 嬉しい、行こう!」


「ちょ、待って、まだコーヒーが」


「平気平気、ルームサービス頼むから!」

梢は店員を呼ぶ事なく立ち上がり、俺の手を引く。


 表面上はおしとやかな性格に見えるが、根は明るく無邪気……やはり楓に似ている。楓と生活環境は全く逆なのに、やはり元同じ人間だと思わされる。


 俺達はお金を払っていないのに店員に止められる事なく店を出る。

 それどころか店の店員は梢を見ると皆一様に深々と一礼する。


 オーナーの娘……なので全部フリーパスなのだろうか?


 それにしても、人生とは本当にわからない、同じ人間の転生先がまるで違うなんて……でもなんとなくだけど、梢よりも楓の方が幸せに感じるのは気のせいだろうか?


 俺は梢の話をもっと聞きたい、もっと話たいと、そう思った。そしてそれは楓とも……。

 何か意味がある気がしてならない、前世で何があったのか? 俺は知りたかった。

 そして現世で二人の妹と再会した意味は? これも偶然では無い気がする。

 

 もっと二人と関われば、何かわかるかも知れない。


 エレベーターに乗り最上階に向かう。

 エレベーターの中で梢は終始ご機嫌な様子だった。

 

 エレベーターから降りると、すぐ目の前の高級そうな扉の前で立ち止まり、梢はバックからカードを取り出す。


『ピッピーー』

 という電子音がなりロックが解除する。


「どうぞ~~」

 そう言って扉を開け俺を誘う。

 言われるがまま部屋に入る。

 広い玄関を抜けると、大きなテレビに高そうなテーブル、そして高級そうなソファーが並んでいる部屋。


「とんでもないな……」

 高校生が気軽に泊まれる部屋じゃない……そもそも予約さえ出来ないであろう。

「コーヒーでも頼む?」

 

「いや、水でいいよ」


「そ」

 そう言うと梢は部屋の端に設置されているバーカウンターの冷蔵庫からペットボトルの水とコップを持ってテーブルの上に置いた。

 そしてテーブルの上に何個か置かれているリモコンの一つ手にすると、スイッチを押す。


『ウィーン』という音と共に部屋のカーテンが自動で全て開く。

 薄暗い部屋に明るい日差しが窓から差し込む。


 大きな窓からは、東京の景色が一望できた。


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