第13話 現世での人生


「えっと……その髪は……」

 とりあえず気を取り直し俺は質問を続けた。

 俺のアドレス等を嬉々として登録していた梢さんはその質問をした瞬間少し怪訝な表情に変わった。


「……どうしてわかったの?」


「……いえ、なんとなくとしか……」

 前世での俺の妹のトレードマーク、赤い髪。

 楓はそのままだったので直ぐにわかった、しかし梢さんは染めていた。

 だから、今まで気が付かなかった。

 

「そうね、質問には何でも答えるって言ったし……未来の旦那様にはちゃんと話しておかないとね」


 梢さんは……なんか妹にさん付けはおかしいな、心の中では呼び捨てにしておこう。

 梢は紅茶を一口飲むと、少し寂しそうに語り始めた。


「……父も母も髪の色は黒かった……父方の親戚にも、母方の親戚にも、その先祖にも赤い髪の人はいなかった……私の父はかなりの資産家、母は結構な家柄、先祖の事もかなり古くから伝えられているの……でもその中に赤い髪の人物はいなかった……」


「……それはつまり……浮気を、お母さんの浮気を疑われたと?」

 母親は自分で産んだ事が自分の子供と証明出来る。でも父親は……。


「そう……髪の毛だけならまだしも、私が小学生になると、私がどっちにも似ていないって……父と母はそれでまた言い争いになった……」


「だから染めたと」


「うん……私の髪を見る度に怪訝な表情をするのが耐えられなくて、以来ずっと……でも手遅れだった、今や父も母も自分の仕事に没頭してね……家には殆んど帰って来なくなった、私の事も……ね」


「DNA鑑定とかは?」


「うん、でも……どうでも良いって……父は……」


「……そか」


「……まあ両親が仕事に没頭してるから、私はお金に不自由はしていない、一人っ子だし、私と結婚すればかなりの財産が手に入るわよ?」

 冗談とも本気とも取れる言い方で梢は言った。


「そんな……」


「……そうね、貴方はお金で手に入る様な人じゃない……それはわかってるわ」

 そう言うと梢はテーブルに置いていた俺の手に自分の手を重ねる。

 


『お兄ちゃん、お兄ちゃん……嫌、行かないで、嫌だよ!』


 その時、泣き叫ぶ妹の声が突然俺の頭に直接聞こえる。真っ暗闇の中、顔も場所もわからない……ただ声が、まるで前世から呼び掛けて来るかの様に……妹の声が……。


 

「どうかした?」

 その声で俺は意識を取り戻す。何秒間か俺は意識を失っていた……いや、意識が前世に戻っていた、そんな気がした。


「いえ、大丈夫です、梢さんの手が……とても暖かかったので」


「……ふふふ……」

 俺がそう言うと心配そうにしていた梢は、嬉しそうに笑った。


 間違いなく楓と梢は同一人物、俺の妹だった。


 容姿も性格も非常に似ている、でもそれは俺しかわからない、俺しか気が付かない。

 現世での生まれ育った環境が全く違っている、違い過ぎている。


 楓は自由奔放、梢はおしとやか、まるで双子の姉妹がそれぞれ別の環境で育った様に……。


 そして、俺の前世で俺は妹と一体何があったのか?

 二人と接触すればする程、頭に浮かぶ前世の妹とのやり取り、映像。


 接触すればする程……もし……俺が……梢や楓と……付き合えば……。


 いや、無理だ、それは……出来ない。


 相手は妹……どっちも俺の妹なのだから……。 


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