第12話 山ノ井梢の場合


 学校を飛び出ると俺は近所の喫茶店に入った。

 夕方前、閑散としている店内、俺は奥の目立たない席に先輩を誘う。


 さっきまで余裕を見せていた先輩は席に着くなりキョロキョロと辺りをせわしなく見回し出した。


 あれ? ヤバい? 不味かった? いきなり喫茶店にって、しかもこんな奥まった席にって。

 

「えっと……何か……」

 俺は恐る恐る先輩に訪ねる。


「え? あ、ううん、こういう所初めてだから、つい」


「初めて? 喫茶店が?」


「ええ、やっぱりおかしいよね?」

 ふふふ、と上品そうに先輩は笑った。


「いえ……そんな事は……」

 普通の喫茶店、高校生、しかも高3で初めて入ったという事に俺は少し驚く。


 暫くして店員さんが水を持ってくるのでそのまま注文をした。

 さすがに注文の仕方までわからないって事はなく、先輩は紅茶を、俺はコーヒーを頼んだ。

 そわそわとしかし嬉しそうに先輩は紙ナプキンを見たり、椅子に座り直したりしている。

 俺はその様子を懐かしいと思いながらじっと見ていた。

 そう……俺にはそう感じるのだ。懐かしいって……。

 まるで生き別れた妹に会っている様なそんな感覚。

 そして、今までどう生きてきたのか、それがとてつもなく知りたい。

 楓に対してもそう……俺は彼女達がどう生きてきたかをとても知りたかった。

 

 そして二人の飲み物が届くと俺はまず本題、学食での事を切り出した。


「あの先輩」


「嫌! 梢って呼んで」


「……あ、じゃあ梢さん……えっとあの……学食での事なんですけど……あれは、その……」

 どう言ったら良いのか、俺は歯に物が挟まった様な言い方でそれとなく再確認をしてみた。


「好きよ? 貴方と結婚を前提におつき付き合いしたいわ」

 全く照れる事なく真っ直ぐに俺を見つめ、梢さんは、先輩は俺に再度告白してくる。


「いや、えっと……俺、梢さんの事知らないので……」


「……身長155、体重48キロ、バスト88、ウエスト58、ヒップ81 好きな食べ物はフロマージュ、嫌いな食べ物は刺激の強い野菜、趣味はお菓子作り、姉弟はいない、他に聞きたい事はある?」


「88?」


「……ご、ごめんなさい……本当は……78……」


「あ、いや、こっちこそごめんなさい……それで──何で俺何ですか?」


「──そうね……運命……かな? 何か貴方とは既に家族の様な暖かさを感じたの……この人だって、ううん、この人じゃなきゃ駄目って、私の心の中で誰かが──そう言った気がしたの……」


「いや、それは……多分勘違いで……」


「そんな事無い! そんな事あり得ないわ、だって……今までこんな事思った事無いの……今までずっと探していたの……誰かを、運命の人を……それが貴方だって……そう思ったの!」


「いや、でも……そんな事を言われても……」

 同じシチュエーション……楓と同じ……、育ちや環境は違えど、やはり根っこは同じ人物……そう思わされる。

 やはりこの人も間違いなく……俺の元妹……。


「ふ、ふふえええええええええええええええん」


「えええ! いや、ちょっと」


「嫌! 貴方しかいないの……私には、もう貴方しか、う、うえええええええええん」


「いや、ちょっと待って」

 あまり人がいないとはいえ、疎らにいる客や、店員が一斉にこっちを見る、

 まずい、こんな所で騒ぎになったら手を学校に近い喫茶店、建前では通学途中に寄る事は校則で禁止されている。いるが、今まで処分された事はない。

 ただし、騒ぎをk起こしたりすれば別だ。

 俺は慌てて先輩を、梢さんを宥める為に言った。


「付き合うのは出来ないけど、その……友達からなら……」


「──本当! うんそれでいい! 宜しくお願いします!」

 先輩は満面の笑みでそう言う……しまった……そうだ……嘘泣きだ。


 この間同じ経験をしたばかりだというのに、俺は二度も……。


 そう……俺の妹は……嘘泣きが得意だった。


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