第7話 このままじゃ!
「先輩美味しかった?」
「うん……ありがとう」
「へへへ」
俺と楓はベンチに座ったまま池を見ている。
まだ4月、日中でもまだ少し肌寒い。
のんびり池と桜を見るなんて何年振りか……いや……ひょっとしたら前世以来かも知れない。
変な関係の後輩とではなく、妹と二人でのんびり池を見ているって思えば、幸せな気分になってくる。
とりあえず今は深くは考えない様にと、俺は能力を切り、そよ風に乗ってくる春の匂いと池の水の香りを嗅いでいた。
すると暫くして隣に座る楓がポソリと呟く様に言った。
「──先輩……お礼……欲しいな?」
「……お礼?」
「……う、うん……」
またキスでもねだられるのか? でも確かに付き合ってもいない俺にわざわざ弁当を作ってくれたんだ、俺に出来る事ならと楓に聞き返した。
「お礼って……」
「えっと……あの……手……手を……繋いで欲しいなって」
「……手か……それなら、ほれ」
それぐらいならと俺は隣に座る楓の手をそっと握った。
「……えへへへへ…………ああ! し、しまったこんな簡単に繋いでくれるならもっとエッチなお願い聞いて貰えたかも!」
「……いや、しないから」
「……先輩……私って……魅力……ない?」
上目遣いで俺を見つめる。さらに目をうるうるさせながら楓はそう言う……。
「一々フラグを立てに来るな!」
俺は空いている方の手で楓の額を軽くチョップで叩く。
「ぶううううう」
唇を立てて額を片手で抑え、涙目で俺に抗議する楓。
「これで我慢すれ」
俺はそう言って繋いでいる手を恋人繋ぎに変えた。
「ふ、ふおおおお!」
「一々反応するなあ……」
「そりゃしますよ!」
「まあ、良いけど……」
「へへへへへ」
そのまま、お互い手を繋いだまま、二人で池をボーッと眺める……すると今度は能力を切っているにも関わらず、頭に映像が無理やり流れ混んで来た。
『お、お兄ちゃん! このままじゃ、このままじゃ私達!』
ボロボロと泣きながら何かを必死に訴える妹の姿、今の楓よりも少し年を取っている姿が頭の中で浮かび上がる……。
やはりそうだ……楓と近付けば近付く程、接触すればするほど前世の記憶が甦る。
すると突然繋いでいる楓の手の力が強くなる。
俺の手を強く握り出す。
何事かと楓を見ると、楓は怪訝な顔で俺をじっと見つめていた。
「先輩……なんだろう……何か胸騒ぎが……何か大事な事を……忘れている様な……」
楓は不安そうに、そう言った。
「……寒くなって来たからかな? そろそろ帰ろう」
「……いや、もっと一緒に……」
そう言うが、楓の手の平は汗が滲んでいた。
「送って行くから……ね?」
「…………じゃあ……また会ってくれますか?」
「嫌だって言っても楓から来るんだろ?」
「……はい!」
俺と楓は笑顔で見つめ合うと、ベンチから立ち上がった。
やっぱり俺達は間違いなく前世で兄妹だった。
そして楓も何かを、何かしらある事を、俺からなんとなく感じ取った様だった。
楓と接触すればする程、前世の記憶が鮮明になる。
そして俺達の前世で、なにかしらの出来事が合ったと思われる。
それは一体何だったのか?
俺のこの能力はそれを解明する為?
そしてあの楓のセリフ、このままじゃとは? 前世での楓と俺の関係は……一体……。
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