第8話 混沌


 休み明け、俺は楓が来る前にそそくさと教室を後にする。

 向かうは昼休み全校生徒が集中する学食。


 並んで迄食べようと思っていない事から入学してからは数える程しか来ていない。


 俺は学食に到着すると、食券も買わずにテーブルに着いた。

 食べに来たわけじゃない……恐らく食べている暇はない……俺はここに視に来たのだ。


 前世が視れる様になったのはかなり前、いや、生まれてからずっと見えていたかも知れない。

 

 ただこの力に気が付いたのは中学生の頃だ。

 頭に浮かぶそれがなんなのか? 昔から悩んでいたが、中1の頃からそれが何かを研究し始めた。

 そして俺の記憶にある妹の姿と重ね、ある一つの結論を導き出した。


 これは相手の、そして自分の前世だと……。


 しかし、それは視るというよりは、なんとなく見えてしまう程度の物。

 歴史上の偉人なんかが見えるわけもなく、例え見えたとしても物凄く曖昧な、ボヤけた映像の為に、それが何か、そいつが偉人なのかもわからない? 有名人だったのかさえも、わからない。

 何度か見てようやく職業が分かる程度、人生の一場面が見えるのがやっとだった。


 そしてこの何の役にも立たない能力に、俺は次第に飽きていった。


 高校に入った頃にはすっかり飽きていた俺は、日常では殆んどこの力は使っていない……退屈な授業の時にクラスメイトをなんとなく見ていた程度になっていた。


 でも今回……妹が身近に登場した。

 そして何かしらの因縁めいた物があるとわかった。


 そして俺は思った……ひょっとしたらまだいるかも知れないって。


 だから俺はここに来た、そして今日久しぶりに視ようと、なんとなくではない、集中して視ようとこの学食に来た。


 俺は食堂の隅に座り、持っていたペットボトルをテーブルに置くと、辺りをなんとなく見回す。


「まずはあのグループから……」

 集中力最大、能力解放……中二病の様な気分に陥りそうになるのを堪え、俺は集中して一人一人の前世を視ていく。


 複数の情報が映像が頭に浮かぶ……兵隊、主婦、子供……前世の記憶が俺の頭を駆け巡る。

 なんとなくとは違い、集中する事は滅多にない……最近じゃあ、妹を、楓を見た時だけ。

 曖昧な情報とはいえ、数多くの前世の記憶……頭の中に様々な情報、映像が映し出される。勿論グロい映像だって出てくる。


 吐き気を堪え……俺は集中して学食に居る一人一人の前世を視ていった。


 今のところ俺に近しい奴は発見出来ていない……。

 片っ端から視て行ったが、そんなに簡単に見つかる筈がない。

 学食が空いて来た所迄見たが、何も発見出来ない……。


「こんな事して……意味があるのか?」

 疲れと吐き気を堪え、そう思い出したその時、一人の女子が俺の前と通り過ぎる。

 黒髪眼鏡の美少女、うちの学校で有名な人物……上級生なのであまり接点はなく、勿論前世を見た事は無い。


 とりあえず頭が、精神力がもう限界……こいつで最後にしようと意識をその女子に向けた……。


「え?」

 

 どこかのお嬢様、はたまたお姫様姿でも映し出されると思っていたが……その女子の、その美しい黒髪姿の女の子の前世に……その映像に……何故か……俺が……俺の姿が映し出されていた。


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