第3話 前世の記憶
他人の前世は見る作業、相手の脳の中を探る様な感覚になる。
そして自分の前世は思い出す作業、古い記憶、忘れている事を思い出す様な感覚になる。
脳への刺激が関係しているのだろう、その人物と触れあえば映像が鮮明になったりする。
つまり……俺は妹……楓と会えば会う程に、触れあえば触れあう程に前世を、兄妹だった前世の事を思い出す事になる。
妹……楓とはスマホの番号や、〖らいん〗等のアドレス交換をした。
夜になってずっとメッセージの音が鳴り響いている。
今もひっきりなしに、呟く様に新着メッセージが飛んで来る。
妹って、こんなに情熱的だったんだ……。
前世の俺はまるで前世に戻った気分で、妹から来るメッセージを他人事の様に見つめる。
前世は前世……勿論今の俺と楓は血の繋がりは無い……無いので法律的にも楓と今世で付き合う事も結婚も全く問題は無い。
無いんだけど……。
例えば生まれ変わって母親と付き合えるか? 女子に転生して父親と付き合えるか? というくらい、俺には無理な事なんだ。
そう……せめて楓が男に生まれ変わっていてくれたら……楓と親友だったなら何も問題なかったんだろう。
『先輩、なんかヤバいですう、先輩の事、どんどん好きになって行くんですけど~~♡』
今来たメッセージを読む……勘違いなんだ、俺と楓は家族なんだ……その気持ちは家族愛なんだ……。
せめて楓に兄や弟がいれば、その気持ちが、俺に対する気持ちが、それに近いってわかったかも知れない。
でも楓は言った……一人っ子だって……。
「どうしよう……」
このまま、なし崩しになんて事になったら……。
また前世の記憶が、映像として頭に浮かぶ……一緒にお風呂に入り一緒に寝ていた子供の頃の記憶だ。
風に吹かれて風鈴がなっている……蚊取り線香の香り。
どこなんだろうか? 真夏の縁側に寝ている俺と妹。
妹は俺と一緒に縁側で寝ている。
着ているシャツが大きく捲れて、白いお腹が丸出しだった。
真っ黒に日焼けした手足に反して真っ白なお腹、その光っている様なお腹に俺はそっとタオルケットを掛けた。
そして妹の赤い髪の毛をそっと撫でる。
うつ向いてい見ていた為に、俺の顔から汗が妹の顔に垂れる。
妹は寝ながら、目を瞑ったまま、額にシワを寄せた。
俺は慌ててかかっているタオルケットでその汗をそっと拭くと妹くすぐったそうに身を捩る。
はっきりと思い出せる妹との一時……可愛い妹との思い出。
これが前世の記憶なのはわかっている……楓には無い思い出、記憶……。
続いているのは俺だけ……。
やっぱり……こんな能力なんていらない……いらなかった。
知らなければ、知らなくて、出会っていれば……俺はあの娘と普通に付き合えたかも知れないのに……。
俺はスマホを手に取り楓のメッセージをじっと見つめていた。
返信もせずに……ただただ、じっと、見つめ続けていた。
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