第7話

 仲間を集める。

 そのためにクンに一人ずつその候補者を連れて来て勧誘する。ここはティハシュ兄さんと俺達三人以外は誰も知らない聖地だったが、だからこそ人生で最も大事な計画の舞台に選んだ。十人目の客はアフだった。

 クンに至る道をツィキンがアフを連れてやってくる。クンの中でノフが待ち構えて、入り口の辺りで二人を待たせる。その間にカンは他に人が付いて来ていないかを調べる。アフが間違いなく一人だと確認したらアフの死角から合図を送り、ノフが二人をクンに引き入れる。

「えらく物々しいな」

 アフは左右をキョロキョロと見回す。ノフが真剣な顔をして応える。

「ああ。内容が内容なだけにな。本題はもう一人が戻って来てからになる」

「もう一人って、この組み合わせだったらカンしかいないだろう」

「それはそうなんだけどね」

 ツィキンが笑う。

「まあ、座ってよ。この辺がいい」

「そうさせて貰うよ」

 アフがどっかりと腰を下ろす。アフは俺達と同い年、街の反対側に両親と弟と妹と住んでいる。三人組程の絆はないが、信頼の置ける男だ。カンがクンに小走りで戻って来る。大きく手を振る、振り返るアフ。

「アフ、悪いね。ちょっと相談があってね」

 三人がアフの前に座る。


 今のところはこのやり方で秘密は漏れてない。それでもこの瞬間は僅かに不安がぎる。俺達が立てている計画を聞いて、反発して、内通される可能性だ。もちろん選定の時点で参画しそうな人だけを選んではいる。そしてこれまでは全員が計画に参加すると表明している。もし、計画に反対する者が現れたとしても俺達は彼を拘束したり無論殺害したりするつもりはないし、その能力もない。薄氷を渡るような計画だと言うことがクンに人を引き入れる度に自覚される。いや、人選がしっかりしていればそればかりでもないか。いずれにせよ、この段階が最も危険で、きもで、面白い。三人で厳選に厳選を重ねた結果の検証場面でもありながら、次の段階に繋がるかのヒリヒリするような時間でもある。しかも一回でも失敗すれば俺達の命が危険だと言うものだから毎回が真剣になる。こんなに真剣にぶつかり合って、何かを成し遂げようとしたことがあっただろうか。ティハシュ兄さんの新しい街を興す計画は、こう言う輝きのある興奮を伴うものだったのだろうか。でも、彼は計画の段階で生贄になってしまった。実際にするのは全然違う。違うんだよ、ティハシュ兄さん。

 じっとアフの顔を見てから、カンは問う。

「君は秘密を絶対に守れるか?」

 ふ、と微笑む。三人に囲まれてもアフに怯みはない。

「ものによるけど、この状況だ、穏やかじゃない内容なんだろう。でもな、心配するな、俺はお前達と同じ穴のムジナだよ、最初から。パレンケの男だ。必ず秘密は守る」

「もし秘密を漏らしたら、死んでもらうことになるけど、それでもいいか?」

 え、と目を見開いたアフはカンを見て、ノフを見て、ツィキンを見て、またカンを見る。

「本気か?」

「ハッタリではないよ。そうなる、ってことさ」

「本気か。だけどお前達が何をするのか分からないけど、それを聞いてからじゃないと判断は出来ないんじゃないか?」

「俺が言ってるのは、もし俺達の話を聞いてそれにくみしないのだとしても、秘密を守ってくれるか、と言うことなんだ。その保証がないと俺は続きを話せない」

「二言はない。さっき言った通り、俺は絶対に秘密を守る。お前達の話がつまらんと思ったら誰にも言わずに胸の中に捨てておくよ」

 俺はノフとツィキンの顔を順に見て、二人ともが頷くのを確認する。元より信頼の出来る人間をここに呼んでいるのだ。この段階は全員がパスしている。

「ありがとう。きっとそう言ってくれると思ってここに呼んだ」

「ああ。分かってる」

 アフがニヤリと笑う。

「お前達がそんなぬるい計画を立てる筈がない。何せノフがいるからな」

 ティハシュ兄さんがパレンケ始まって以来の俊英と言われたのに対して、ノフはティハシュに比肩する英才と言われている。それを生前に分かっていたのか、ティハシュ兄さんはノフに色々なことを教えた。俺とツィキンにはそう言う二つ名はない。三人は対等だけれども、外から見るとノフの威光がって見えると言うことが今回のことをやってみてよく分かった。計画の潤滑油になっているのは間違いなくて、いずれ俺にもそう言う何かが出来ればと思う。

「よし。じゃあ、話すよ」

「おう」

「俺達は徒党を組んで、生贄の日の前日の夜にパレンケを抜け出そうと思っている。三百人くらいは集めたい。新しい街を作るんだ。王が言う太陽の舟に対抗して、星の舟と名付けた。どうだ、アフ、入らないか」

 三人の視線の中、アフは咀嚼するように考える。苦い顔になり、小さなため息とともに口を開く。

「魅力的だね」

「そうか」

 俺は表情を緩めることが出来ない。結論はまだ出ていない。

「俺は死にたくない。正直に言おう。俺もどうやって生贄を逃れるかをずっと考えていた。ジャングルで生活することなんて無理だし、かと言って一人で他の国に移り住むと言うのも度胸がない。場合によっては殺されるからね」

 やはりアフは最初からこっち側だったのだ。

「他ならぬカン達の計画なら、是非もない、参加させてくれ」

 カンの顔が綻ぶ。ノフもツィキンも笑う。

「よかった。これでアフも仲間だ」

「よろしくな。で、俺は仲間として何をすればいい?」

「計画が漏れないように、事前の準備は俺達だけでしようと思っている。だから、秘密を守って、当日に俺達が迎えに行くのに速やかに応じてくれればいい」

「分かった。じゃあ、その分、新しい街を作るときにはいっぱい働かせてくれ」

「頼む」

「任せろ」

「出来ればアフの家族も参加して欲しいのだけど、直前まで秘密にして欲しい。どうだろう、こう言う条件で来てくれそうか?」

「弟妹は来るだろう。説得する自信がある。親はわからないね。そこそこ信心深いし、来ないかも知れない」

「分かった。それで十分だ。当日、迎えに行くから日が落ちる頃に家族に話をしてくれ。持ち物はなるべく多くだが、恐らくジャングルを渡ることになるからそのつもりの装備と荷物の量で頼む」

「了解」

「よし。右手を出してくれ」

「右手?」

 首を傾げながらアフが出した右手に三人の右手を重ねる。三人でしたこの形を仲間の形としてこれまでも全員としている。ノフから始める。

「これで俺達は運命共同体だ」

 俺がそれを受ける。

「絶対に勝つ」

 アフの顔に一筋の凛としたものが走る。光ある瞳でアフはクンを去って行く。その姿を見届けた後に、三人で成功を喜ぶ。これで十人目。まだまだ人数が必要だ。

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