あの懐かしい


 眼下に座り込んでいる女を見て「そういやこいつと恋人になってから初めての共同作業なんだ」と妙な感慨に更けていると、突然、当のそいつが立ち上がり、「ばしるうら」みたいな呪文をひとしきり唱えてから、腕を押さえて何処かへと行ってしまった。

 すると、餌に逃げられたことで戦意を喪失したのか、アロエの力も徐々に抜け、最終的には地面に落ちた。

 結果として鉢は真っ二つに割れて、アロエの下半身が露になった。根が隙間なく密集しており、茎をむんずと持ち上げても土は一欠片も溢れなかった。

 無論、そんなことよりも、むんずと掴んだその手のひらを八つ裂きにしなかったことの方が余程驚きであったのだが。


 三日が経っても、アツコは戻ってこなかった。電話を掛けても居留守用の白々しい音声がかかるばかりで、私はあの懐かしい虚しさが再び心の底に芽生えるのを感じた。

 結局、彼女との肉体関係と言えば、腕枕をしてやって「かたい」と言われたことだけだったか。

 蒸し暑い部屋内に主人の帰りを待つラリちゃんの死臭が充満し始め、私の頭をぼんやりとさせる。

 うちのアロエは新調した鉢の上で元気にやっている。最近は専ら鳥類にはまったらしく、雀やらカラスなんかを優しく包み殺している。

 ぼんやりしたついでに「もしかしたらこいつ、アロエじゃないのかも」とも思ったが、今さらケチを付けるのも馬鹿らしい話なので、深く考えるのはよした。

 暑さと臭いに耐えかねたので、服を脱いで裸になり、シリコンに包まれた利き腕をじっと見て、久しぶりに夢想する。


 もしアツコが腕を替えていたら、一緒に手を繋いで表参道でも歩いてみようか――




 多肉食植物系女子  完

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多肉食植物系女子 脳幹 まこと @ReviveSoul

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