燦然と輝く
野暮用で立ち寄った店のレジ先で、突然目が眩んだ。
その拍子に、棚にあった商品を盛大にぶちまけ、アルバイト店員の顔を思いきり困惑させることになった。
慌てて物を拾う私に、その店員は苦笑しながら手伝いをしてくれたが、その気遣いを受けた私の心中は、正直かなり危ういものであった。
何故なら、その店員こそが私の立ち眩みの原因であり、つまるところ私は一目惚れというやつをしていたからだった。
一目惚れというのは本当に恐ろしいものだ。赤ん坊の頃に少し使っただけで、今では存在すら疑わしく感じられていた、無限大のエネルギーが一挙に放出されるのだから。その現象の前に理性など、藁の家にしかならない。
そして、許容範囲を超えたエネルギーを受けた人間というのは、おかしくなるものなのだ。
全てを片付け終えて、精算を終えた私は「あなたが好きです」と人生ではじめて告白をした――おかしくなったものに、未来を考える力などある訳もない。
十幾秒、この世の終わりのような沈黙が流れた。
ざわめきが戻った時には、店員は既におらず、代わりに店長と名乗る禿げ頭の男性に肩を掴まれていた。
私はその後、別室でこってり怒られたらしい。
らしい、と言うのはつまるところ、その間の内容を全然覚えていないし、覚える気もなかったということだ。
後で聞いた話では、禿げ頭の男性は机を激しく叩いたり、酢であえたような屁理屈を口酸っぱく捲し立てたようだ。
その時の私は、ポカンと口を開けたまま、ああ、ああ、と鼻抜け声を漏らしつつ、頭を振り続けていたようで、元道徳の教師だった男は、それはもう懇切丁寧に罵倒し尽くしたが、それも波打ち際に描かれた相合い傘と同じ末路を辿り「反省の色なし」として解放された。
冗談じゃない。何が「色なし」か。その時の私ほど色に染まり、色を欲したことなどなかった。
少なくとも私の記憶では、五感が受け取る全ての情報が、今までにないほど瑞々しく、華々しく、神々しいものになっていた。
無論、禿げ頭ですら、宇宙に燦然と輝く太陽であったのだ。
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