機械仕掛けの受刑者


 ある夕暮れ時、その日四度目の自慰が終わった途端、無性にアロエが食べたくなった――いや、食べてやりたくなった。

 その時に抱いていたのは、理不尽な怒りのようなもの。自分以外の何かに理不尽を与えてやりたいという、どろどろした川底のヘドロのような。

 アロエはその時、冬の空に生き物を探している最中だった。見つけ次第、愛のあるハグを行うつもりなのだろう。抱擁に使う八本の腕は、更に太く長くなっていた。

 食べごろだ。剪定バサミを右手に持ち、ゆっくりとベランダへと向かう。

 放任主義が功を奏したか、主人を目にしても、アロエは特段何も行動をしなかった。その主人がどんな心境でいるかなど、考えようもない。

 別にいいよな、一本くらい。八本もあるんだから。お前も一緒に疵物になろう。


 アロエの首にハサミを入れた。


 しかし、切れることはなかった――刃が全く通らない。力任せに握り込むが、びくともしない。

 しばらく奮戦していると、鋭い痛みが走った。知らぬ間に、右腕に一本の葉が巻き付いている。棘が服越しに突き刺さり、染みを作り始めた。

 引き剥がそうと左手を出そうとして、諦めた。右腕には瞬く間に残る葉がまとわりつき、袖を穴だらけにしていたのだ。

 そうか――私は悟った。

 人間からすれば単なる一本の葉だろうが、アロエにとっては大切な肉体の一部なのだ。

 水を飲まず、餌も自力で取っていた。過酷な環境で必死に戦い続けていた。

 そんな健気な植物に、私はハサミを入れようとしたのだ。

 理不尽と戦い抜いた、その凛々しい葉に。

 痛みと情けなさと申し訳なさとが重なり、私は涙と鼻水を垂れ流しながら、自身の罪名を叫んだ。

 己が不義理を、不誠実を、浅薄を、傲慢を、虚偽を、失態を、無礼を、逸脱を。

 私が救いを請い続ける機械仕掛けの受刑者となっていた時、アロエもまた機械仕掛けの執行官となり、少しずつ締めつけを強めていった。




 このやりとりは数時間にもわたって続いた。

 その間、アロエが怒っていたのか、悲しんでいたのかは、知らない。

 植物の感情など、私には分からない。

 分かっていたことは、その間、私は笑っていたというだけだ――これでいいのだ、と。

 締めつけは結局、最後まで終わらなかった。

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