第17話 お兄ちゃん
学校に戻ると、生徒集会は終了していた。副会長と書記、会計、そして美結が全てやってくれたと報告が入った。
まず、創太と楓恋は生徒会室にて生徒会のメンバーに謝罪した。
「別にいいよ」
副会長は笑ってそう言ってくれたが美結の表情は不服そうだった。
「2人でどこへ?」
美結がそう言うと、楓恋は戸惑いながらも答えた。
「いろいろだ」
返答になっていない返しだったせいか、美結の表情はもっと不満そうなものへと変わった。
美結は創太に近づき、創太の腹部を一発殴った。
「な、なにすんだよ」
「先輩のアホ、間抜け、童貞」
「最期のは余計だぞ」
創太は美結の反応に引っかかるものを感じたが、気にせず楓恋のもとに行った。
「あのことってこの場にいる美結以外は知ってるんですか?」
「ああ」
美結は頬を膨らませ怒っている素振りをしている。
やっとのことで一日が終わり、創太は帰路についた。波乱の一日だったことは確かだ。楓恋が芸能人という新事実に創太も動揺が隠せていない。
この世界に来てから創太の知らない場所が広がっている。
妹だけではない。
「創太」
創太が帰宅しているのを遠くから眺めている少女がいた。
少女は、この世界の創太を知らない。少女は、もう一つの世界の創太を知っている。
「早く、こんなところから出て行かせないと」
少女は知っているこの世界の真実を。
創太の近くに潜む、本当の敵を。
創太が帰宅すると鈴が走って出迎えた。
「お兄ちゃん!今日から明後日までお父さんとお母さん旅行だって」
「なぜ、また急に」
「だって明日結婚記念日でしょ?」
「そうか」
明日土曜日だ。
休日に両親がいないというのはなんというかドキドキするものがあると創太は勝手に思っている。
「やっと……二人きりになれた」
創太の耳には確かにその言葉が聞こえた。
目を丸くする創太に鈴は微笑みながら言い放った。
「お兄――じゃなくて、創太」
「なに言って……」
靴を脱ぐ暇もなく鈴は創太に迫った。
どうしたらいい。考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ!
「っん!」
こんなのおかしい。
創太の唇に鈴の柔らかい唇が触れている。
回らない思考をどうにか回転させ創太は鈴を突き放した。
「俺たちは、兄妹だろ!」
その言葉は鈴を酷く傷つけた。
「ど、どうして?」
創太にとって本当の兄妹はこんな風に愛し合わない。
妹のいない生活を送っていた創太にとってこの兄妹愛は受け入れられない現実だった。
「そんなの、おかしいよ!」
「……!」
鈴の瞳から涙が溢れ出している。
「いつものお兄ちゃんじゃない!」
創太の胸元をポコポコと殴りながら鈴は叫ぶ。
「お兄ちゃんを返せ、お兄ちゃんを……お兄ちゃんは、そんなこと言わない」
咎めることができない創太は、その場他人のような感覚に陥っていた。
お兄ちゃんと何度も呟く鈴のその掠れた声が胸を締め付けた。
「……お兄ちゃん」
耳を覆う気力さえなく創太は、立ち尽くす。
俺の世界に咲く妹よ 奏 音葉 @1071062
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