第16話 隠し事は誰にでも
創太は帰宅するとリビングに向かうのではなく部屋に向かった。疲労感が強いせいか、鈴と顔を合わせる気にはなれなかった。
だが、その想いとは裏腹に部屋のベッドでは鈴が眠っていた。
部屋を間違えたかと思い、部屋中を見渡すが創太の部屋である。
「あ、れぇ……おにい、ちゃん?」
目を覚ましたのか目を擦りながら上半身を起こした。
部屋着が捲れてお腹が見えてしまっているが、創太は妹という事実の結果、なにも感じないと思い込んでいる。
「お、お腹冷えるぞ」
鈴は捲れた部屋着を見て、恥ずかしそうに布団に身体を隠した。
「えっちなお兄ちゃん」
「べ、別に普通だろ!兄妹なんだから」
創太の言葉に鈴は悲壮感のある表情を見せた。その表情に創太は気づかなかった。
「お兄ちゃんの匂いがする」
布団を嗅いだ鈴がそう言った。
「やめてくれ」
「いいでしょ?兄妹なんだから」
鈴の言葉は嫌味のようだった。
鈴は立ち上がると、部屋の扉に手をかけ出て行こうとした。
「お兄ちゃん、私はまだ……」
なにかを伝えようとしていたが、全てを言い切らずに鈴は出て行ってしまった。
創太は疲れのあまり、出て行ってすぐにベッドにダイブした。
鈴の匂いがする。
「妹に興奮するな俺!」
言い聞かせるが、無理だ。
妹という存在は、創太の感情を掻き乱す。
翌日、創太は今、最悪な状況に立たされていた。
「なんでこうなった」
生徒集会があと数十分で開始するはずなのに、創太は今、楓恋と共に某テレビ局のスタジオにいた。
創太も見たことのあるほど有名な歌番組の収録が今まさに行われている。
「
目の前で歌っているのは、現在人気絶頂の歌手――LEARだ。
そして、そのLEARは楓恋だ。
楓恋は普段、ノーメイクで髪の毛を高めに縛っているが、LEARの姿は完璧なメイクで髪の毛を下ろしている。
LEARこと楓恋が歌い出すと、スタッフやマネージャーは感動した表情を浮かべている。LEARの歌声は現世に舞い降りたローレライと称されるほどだが、目の前と画面越しでは迫力が全然違う。
「ありがとうございました」
サービススマイルで歌い終えると、楓恋は走って楽屋に戻り、一瞬で着替え、メイクを落とした。
「やばいぞ、創太くん」
「わかってますよ」
こうなった経緯は、創太としても理解できるものではなかった。
朝、楓恋と創太はいつも通りに仕事をしていたが、楓恋のスマホが鳴った。それは仕事の連絡だったのだろう。焦ったような表情で創太に言い放った。
「助けてくれ」
普段なら迎えが来るはずだが、今回に限って迎えが来れない、それに加え、仕事は重要なものと聞き、創太はボディーガード替わりに楓恋を送った。
それだけのはずだったが、今、こうして楓恋の隠し事を知ってしまった。
「私はLEARだ」
「十分わかりました」
「正直、恥ずかしい」
「いや、かっこよかったですよ」
「本当か?」
目をキラキラさせて聞いてきた楓恋はいつもの威厳を失っている。
「本当ですよ」
楓恋は嬉しそうな反面、焦りを見せていた。
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