第15話 猿とは寝れない
自称、美結の元カレは、創太を敵視しているのか、威嚇体制をとったまま、近づいてきた。
美結は軽蔑的な視線を相手に浴びせる。その目に気づいた創太は、すぐ美結の目元を手で覆い、相手を見つめる。
「さっそく仲良しアピールか?」
「断じて違う」
創太の心を簡潔に言うとすれば、修羅場過ぎるだろ!だ。
「先輩、どうにかするので手をとってください」
「いや、ダメだ」
「ちぇ」
可愛く舌打ちをされても、さすがにあそこまで自称元カレを睨んでいたらさすがに焦る。
だが、目を覆うだけでは足りなかった。
「アンタさ、勝手にキスしてきて受け入れてあげたら付き合えたとか勘違いした挙句、最低なびっちとか噂流してるでしょ!」
自称元カレは肩をぴくっと上げた。
その反応、図星なのか?
冷や汗を浮かべ、奥歯を食いしばっているようだった。
「いろんな男と寝てる?なわけないでしょ、お前ら低能な猿どもと同じベッドに入るのを想像しただけで――」
最後の言葉を言わせまいと創太は、口を両手で覆った。そのせいで目を覆っていた手を外してしまった。
完全に自称元カレは憤怒している。
バスケ部の部員が止めればいいが、笑って見ている。
「ふざけやがって、クソびっちのくせに!」
美結は言い返そうとしていたが、創太が強く抑えた。
その代わり、創太が口を開く。
「八つ当たりはよくないよ。それに、負け犬の遠吠えってモテないよ?」
つい、勢いで煽ってしまった。
自称元カレは打撃を喰らったような表情を浮かべ、地面に落ちていたバスケットボールを拾い上げると、力強く投げようとした。
刹那――そのボールは蹴り飛ばされた。
「君、ボールをそうやって使うなら連帯責任で部活を全員休部させるが、いいのかな?」
この声は、楓恋だ。
ボールはステージの方に転がっている。
「か、会長⁉」
「そうだな。会長だ」
会長という立場の優勢さなど分かり切ったことだ。
自称元カレは、投げたボールを拾いもせず部員たちのもとへ走って戻った。
「遅いと思えば、なにをしていたんだ?」
創太は美結から手を放し、楓恋に駆け寄り言い訳をしようとしたが、美結が先に口を開いた。
「私が身勝手な行動をとったせいで、創太先輩まで襲われました。創太先輩は悪くないです」
楓恋は美結を見つめる。
「別に怒ったりはしない。だが、変な行動をするなよ」
美結は素直に頷く。
その後、順調に生徒集会の準備やリハーサルは進み、一時間もしないうちに帰ることができた。
創太は美結に誘われ、一緒に帰ることになった。
気まずい空気が二人の間を流れる。
創太がまず口を開いた。
「今日はありがとう」
「別に簡単な仕事でしたし」
「佐上さんってやればできる子なんだね」
「なんですか、その言い方、キモイです」
年下なせいか美結を妹扱いしてしまう創太に美結は呆れていた。
「でも、こちらこそありがとうございました」
美結は頭を下げ、感謝を伝える。
「ああ、別に俺はなにもしてないよ」
「でも、止めてくれました。あのままだったらあの男、殴ってました」
美結が自称元カレを殴る姿をすぐに想像できてしまう創太だった。
「先輩、安心してください。私は処女です」
創太の足が止まる。
安心もなにもなにを言っているのかと思考が停止したのだ。
創太は深呼吸をし、目を大きく開くと小さく呟いた。
「嘘だろ?」
「いや、本当ですよ。私、好きな人いなかったんで」
美結は笑顔でそう言った。
今まで、美結に騙された男が何人いたのだろうか。可哀想だ。
「でも今は、先輩が好きです」
最後に美結は創太に聞こえないようにそう呟いた。
創太には届くことはなく、創太は美結が処女という事実を深く受け止めていた。
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