第二章 知らない世界

第14話 ありふれた一日

 目を覚ますと、頭痛はなくなっていた。あの謎の記憶も微かにしか残っていない。

 リビングに向かい、いつも通り朝食を食べ、いつも通りに支度を済ませる。なにも変わらない日々だ。


 いつも通りに学校に向かい、生徒会の仕事を行う。

 予定調和が続いているだけなのに、なぜか違和感がある。

「創太くん、今日の放課後なんだが、生徒集会の準備でもう一人助っ人がほしい。誰かいないか?」

「えっと、まあ適当に探しときます」

「まかせた」

 楓恋の怒りは治まっているようだった。


 創太は教室に戻ると真っ先に晴彦のもとへと向かった。

「ああ、今日は無理だわ。バイトあってさ」

「お前、バイトなんてやってたか?」

「最近はじめた」

 助っ人の話は簡単に断られた。

 他に頼れる人間といえば、美月か。

「ごめんね。お手伝いしたいけど、今日はさすがに部活抜けられない」

「わかった」

 創太は自分の人脈の薄さを痛感した。

 他に頼れそうな人間がいるのだろうか。


 昼休み、自販機に飲み物を買いに行くと、美結がいた。

「佐上さん」

 駆け寄ると、創太を見ながら睨みをきかしていた。

「どうかした?」

「クラスで変な噂ができました。本命の先輩ができたとかいう最悪な」

「マジで?」

 美結は大きくため息を吐くと、創太を見つめながら言い放つ。


「責任とってくれますか?」


 冗談なのか本気なのかがわからない表情に創太は、困惑した。

 どう返すのが正解かわからなかった創太は頷くことしかできなかった。

「さすがに先輩はなしよりのなしです」

「……それはなし過ぎないか?」

「だって全体的に普通じゃないですか。先輩」

 創太はごく一般的な身長、体重、学力、運動能力、容姿を持っている。

 パッとしないとはこのことだろう。


「そういえば、佐上さん今日の放課後、ひま?」

「まあ、珍しくひまですね」

「じゃあ、生徒会室に来てよ」

「また呼び出しですか?」


 勘ぐり深いのか美結は警戒心が強い。

 創太は笑いながら、

「違うよ」

 と応える。


「じゃあ、他にありますか?」

 創太は美結の肩を叩き、笑いながら言う。

「まあ、お楽しみ」

「はぁ?」



 放課後、生徒会室に入ると、そこでは修羅場的な絵面が出来上がっていた。警戒心を醸し出す美結と機嫌の悪い楓恋だ。

 創太が入ってきて早々、楓恋は創太に近寄り、首元を掴みながら尋ねる。

「どうしてこいつを選んだ」

 恥ずかしながらに創太は答えた。

「知り合いいないくて」

 哀れみの目を向ける楓恋に、創太は悲しくなった。

 楓恋は呆れながら創太から離れ、口を開いた。


「では、明日の生徒集会の準備を始める」


 その言葉を聞いて、美結は創太を睨む。

「まず、創太くんと佐上(びっち)さんは体育館に行って、機材の確認をしてきてくれ、これが機材の内容が書いてある資料だ」

 渡されたのは数枚の紙だ。

 創太と美結は文句を漏らさず、体育館へと向かった。


「先輩、最低です仕事させるなんて」

「別にいいだろ」

「委員の仕事もしたことない私にこんなことさせないでください」

 さすがに不真面目すぎるのではないかと耳を疑った。


 体育館に着くと、バスケ部が活動をしていた。

 バスケ部の部員の中に見覚えのある人影が見えた気がしたが、勘違いだろう。

 ステージ裏に入り、機材の仕舞われている一室を確認する。

「マイク二本あります。あとは……電源が点くか確認して」

 美結は慣れたような速さで仕事を終わらせた。

「大丈夫ですね」

「お前、すごいな」

「こんなのすぐ終わります」

 ステージ裏から出ていき、生徒会室に戻ろうとしていた時だった。

 バスケットボールが飛んできた。


「危ない」

 咄嗟に創太は美結を引き寄せ、守りの態勢を作る。


「あれ?美結、またその男といるんだ」


 よく見れば、投げて来たのは昨日、美結にフラれた男だった。

「アンタ、逆恨み?」

「だったらなんだよ!」

 創太は冷や汗を浮かべ、その場に立ち尽くす。

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