第13話 この世界の俺

 バスに乗り込み、やっとのことで最寄りのバス停に着くと、創太は中学校の裏にある公園へと向かった。

 少年は中学校の裏にある公園に来てくれと言っていた。家から近いらしい。

 中学生を一人で待たせていると考えると気が重くなる。


 公園に着くと、ブランコに揺られ俯く少年の姿があった。


「遅くなった」

 息を整え、前に立つ。

 少年の目は潤んでいる。


「おにぃざん」

 勢いよく立ち上がると、創太に抱き着いた。


「なんだよ!」


 少年は泣きながら語り出す。

「ラブレターを渡したところまではよかったんです。放課後、下駄箱に生徒手帳を入れようとした時、見られて……」

 鈴は、少年が生徒手帳を持っていたことに対し、言及し、最近のストーカー紛いな行動も疑われた。

 そして、最終的に、

「勢いで告白しました」

 その告白に鈴が応じるはずもなく。

 蔑むような目を向けられた挙句、こう言われたらしい。


「『気持ち悪い』」


 言い過ぎたと創太は思ったが、それも仕方がない話なのかもしれない。

 少年の頭を撫で、慰める。

 数分ほど、少年を慰めていると、少年は落ち着いたようだった。

「よし!もう一回だ」

 両頬を自らの手で叩き、目を覚ます。

 少年の目にはリベンジの炎が見えている。


「じゃあ、がんば――」

 その時、急に頭痛が走った。

 なにかが脳に入り込んできている。


 ―――『お兄ちゃんが好き』

 ―――『お兄ちゃん以外は愛せない』


 なんだこれ。

 少年を素直に応援できない。身体が拒んでいる。

 丁度よく、スマホが鳴った。

 確認すると、そこには神庭からのメッセージが映し出されている。


『そっちの世界の創太くんの人間関係に気をつけろ』


 少年は困った顔をして創太を見ている。

「ごめん、俺、もう帰らないと」

「そうですね。じゃあまた」

「ああ」

 また、と言えなかった。



 帰宅すると、心配そうに鈴が待っていた。

 変える途中に買ってきたアイスを渡すと、安心と喜びを全身で表し、リビングへ戻っていった。

「なんだ。これ」

 鈴の表情を見る度、創太の思考回路が異質な動きをする。

 元々、この世界で暮らしていた創太の記憶、創太はそう考えることにしたが、感情のコントロールが難しくなっていた。


 今にも鈴を女子として見てしまいそうだ。


 リビングには向かわず、自室に戻る。

 ベッドに倒れ込み、目を閉じる。

 忘れろ、忘れろ、忘れろ、忘れろ、早く忘れろ。


 ドア越しに誰かの声がした。

「お兄ちゃん、ありがと」

 聞こえないふりをして、その日は眠りについた。

 だって、仕方ないだろ。


 俺は、この世界を楽しむために来たんだから。


 ●


 創太が目を覚ますとは、そこは創太の部屋だった。だが、違うところが一つだけあった。

「鈴との写真がない」

 スマホにも存在していない。

 部屋を出て、確認したが、隣に鈴の部屋はなかった。

「なんだこれ」

 動揺を隠せない、本当だったら妹のいる世界の創太は、普段の日々を過ごそうと必死に一日を過ごし始めた。




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