第12話 失敗の連発

 鈴のことが好きな少年と創太は連絡先を交換し、創太は少年を助けようと思った。

 まずは、友人から渡してと言われているラブレターを渡すべきだと説得をした。


『いやです』

『それを渡された時の反応を見て、考えてみないか?』

『むりです』

『俺はお前を応援している』


 どうにか説得することを成功させたが、ここからが問題だ。創太は忘れていた。生徒手帳を渡させるのを。

 下駄箱にでも入れておけと言おうと思ったが、さすがにラブレターを渡すのを拒む男がそんなやり方すんなり受け入れるはずがない。


 深夜まで考え、俺は翌朝、寝坊をした。


「やばい!」

 朝食もとらずに走ってバス停に向かい、バスに乗り込み、高校に辿り着く頃にはもう生徒会のあいさつ活動は終わっていた。


「会長!」


 タイミングよく歩いていた楓恋を呼び止める。

「すいませんでした!」

 息を切らしながら謝る創太に楓恋は、軽蔑的な目を向けず、柔和な笑みで訊ねた。


「なにかあったのか?」

「ね……ぼう、みたいな」


 楓恋の目つきが変わった。

 なにも言わずにその場を立ち去った姿を見て、創太は察した。

 終わったと。


 教室に入ると、美月と晴彦に挨拶をされたが、返す余裕もないくらい焦っていた。

「どうした?てか、今日遅かったな」

「それがさ、寝坊したんだ」

 晴彦は一旦真顔になり、笑い始めた。


「バカだなぁ」


 わかっている。言わないでくれ。

「寝てないのか?」

「うん」

「なんで?」

「妹の同級生の恋愛相談乗っていて」


 晴彦はまた笑い出した。

 中学生の恋愛相談に乗るというワードは破壊力があったらしい。


「まあ、頑張れ」


 どう謝罪したら解決するのか相談する暇もなく晴彦は席に戻っていった。

 美月ならどうにかしてくれるだろうか。

 隣の席の美月を見るが、友人と会話をしているようだった。

 もうすぐホームルームが始まってしまう。


「みつ――」


 スマホから通知音が鳴る。

 確認すると、少年からだった。

『夕方、会えませんか?』

 美月に相談する時間もなく、ホームルーム開始のチャイムが鳴り響いた。



 放課後、創太が帰ろうとしていると、下駄箱で美結を見かけた。

 話掛けようとしていると、男子と二人でいるようだった。

 耳を澄ましてみると、


「私は、あんたの彼女になった記憶ないよ?」

「キスまでしといてさすがにそれはないだろ!」

「気持ち悪いからやめてよ」

「ふざけるな!」


 創太が覗くと、男子が美結を殴ろうとしている瞬間だった。

 正直、痛いのは嫌なので、殴られる寸前に創太は美結の手を掴み、走り出した。

 ギリギリだが殴られるのは回避できた。

 安堵のため息を吐く。


「放してください」


 校門付近で止まると、美結は創太の手を振り解いた。

「大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。あんなの日常茶飯事ですから」

 人気者はやはり違うな。


 だが明らかに美結の表情は歪んでいる。


「気持ち悪いですよ。マジで、キスだけでカップルとかいつの時代だっつーの」


 地面に転がった小石を蹴り、言い放った。

「男ってそういう生き物だから」

「女もですよ?クラスメイトのイケメンがちょっと優しくしてくれただけで好きとか言いますから」


 歩きながら美結は創太に多くの愚痴を吐いた。

 愚痴を言った後の美結は気が楽そうに見えた。

 愚痴を言い終わって美結はふと思い出したように言った。


「先輩、生徒会の仕事いいんですか?」


 創太はその言葉に硬直した。

「忘れてた」

「今日、朝もやってませんでしたよね?」

「やばい、やばい」


 美結に「さよなら」と言って、校舎に走って戻る。全速力で走ったこともありすぐに辿り着いた。


 生徒会室に入ると、憤怒した楓恋がイスに腰かけ待っていた。


「かい、ちょう?」


 怒りのあまりか高笑いを始め、楓恋は机を殴った。

「ふざけるな!」

 創太は肩を震えさせ、姿勢を正す。


「二度目だぞ!」

「わかってます!」


 楓恋は、立ち上がると、目の前にあった大量の資料を創太の前の机に置き、パソコンを配置する。

「さあ、お仕事だ!」

 ブラック企業の部長かのような目つきで楓恋は、創太に仕事お振った。


 早く終わらせないと!


 少年との約束のことも思い出し、必死にパソコンに打ち込んでいく。

 流れ作業なのにどうしてこうも面倒なのだろうか。

 タイピングが得意ではない創太は何度もミスをしたが、どうにか一時間で終わらせた。


「時間がないので帰ります!」

 創太は、走り出した。

 疲れ切った身体をフル稼働させ、走り抜けていく。

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