第11話 思春期なストーカー

 放課後、その日、創太は美月と帰る事になった。

 仲直りという名目で帰るのだが、もう関係は戻っている。


「創太、どうして生徒会の手伝い引き受けたの?」


 突拍子もない質問に創太が悩みながら応えをだす。

「やってみたかったからかな」

 はっきりとしない言い方に美月はしっくりきていない。

 それもそのはずだ。

 創太自身、どうしてやろうと思ったかは曖昧なのだから。


「まあ、頑張って」


 美月はしっくりこないままそう呟いた。

 そして、美月の家まで送ると、創太は自宅に向かった。



 自宅付近につくと、創太は電柱に人影を見つけた。

 中学の制服を着ている男子だった。

 創太が帰ってきたのが見えたのかその男子は走ってどこかへ行ってしまった。

「なんだ?」

 家に入り、リビングに向かうと俯いた鈴がいた。


「どうした?」

「……あ、お兄ちゃんか」


 怯えているような鈴を見て、創太はなにかに感づいた。

「もしかして、鈴、ストーカーされていないか?」

 不思議に思って聞いただけだったが、鈴の反応は予想以上だった。


「お兄ちゃん、助けてぇ」


 泣きながら創太にそう言い放った鈴は本当に怖いのだろう。

 創太は鈴の横に座って、聞いた。

「なにがあったんだ?」

 鈴は、ゆっくりと教える。


「最近、帰る時に背後から足音がして振り向くと誰もいないの。だから、怖くなってさっきリビングのカーテンから覗いたら、電柱の陰に誰かいて」


 電柱の陰にいたのはやはりストーカーだったのかと創太は頷く。

 鈴はそのまま泣きじゃくり、部屋に入っていった。


 創太にとって初めての妹を助ける兄的イベントだ。


 創太は、生徒会の手伝いのことなど忘れ、ストーカーをどうするか考えた。

 中学の制服だったことで鈴と同級生である可能性が高い。

 一瞬見ただけだった創太にわかるのは、小柄な男子ということだけだ。

「鈴、助けてやるからな」

 創太は、考える。

 妹のために。



 翌日、創太は鈴のストーカー除去大作戦を考えていて夜更かしをし、生徒会の仕事をすっかり忘れていた。

 起きて、学校に向かう頃には生徒会長からメッセージが来ていた。

『仕事をしないやつだとは思わなかった』

 その辛辣な一言に創太は焦りを隠せずにいた。


 だが、創太の足はバス停付近で止まった。


 すこし先に家を出た鈴の後ろで昨日電柱の陰にいた男子に似た男子がいたのだ。

 創太はすぐにその男子に声をかけた。

「あの、いいかな」

 男子は、顔を真っ青にして創太を見つめる。


「君、鈴のストーカー?」


 単刀直入にそう言った創太に男子生徒は、ハッキリと言い放った。

「ストーカーなんかじゃないです!」

 その男子生徒は、鞄から生徒手帳と一通の手紙をとりだす。


「これは、鈴さんの生徒手帳です」

「さすがにやばいだろ」

 男子生徒は首を大きく横に振り、

「拾ったんです」

 と言った。


「そして、これは鈴さんに渡せと言われて持っているラブレターです」


 創太は目を丸くした。

「お前の書いたラブレターではなく?」

「はい、友人から渡せと言われて持っています」

 この男子生徒曰く、鈴とは小学校からの付き合いで仲が良く、それを見た鈴に気のある友人から渡されたラブレターを渡せずに持っていたらしい。


「じゃあ、生徒手帳も渡す勇気がないってことか?」

「はい」


 創太は大きく安堵のため息を吐く。

「なんだ。なら早く鈴に渡してやれよ」

 それを言う創太に男子生徒は顔を赤くして呟いた。


「渡せません」


 創太は顔を強張らせる。

「はあ?なんで」

 男子生徒はもじもじしながら呟いた。

「僕、鈴さんが好きなんです」


 これは思春期特有の羞恥心なのだろう。

 次に創太は面倒臭いという気持ちを前面にため息をついた。

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