第2話 バカの日常にはなにもない

創太は、おじさんに対する怪しいという感情を悶々とさせながら、教室に入った。

いつもより早くきたせいか鞄は置いてあっても生徒の姿はない。


「春瀬ぇー」


扉の方から聞き覚えのある男性教師の声がした。振り向くと、そこには担任がいた。

「補習だって言ったよなぁ」

硬そうなファイルを持って、担任は創太の目の前にきた。

そして、ファイルの角で創太の脳天にダメージをあたえる。


「すこし遅れただけじゃないですか!」

「遅れんな」


首元を掴まれ、創太は引きずられるように補習用の空き教室に連れていかれた。

教室につくと、そこには一人だけ生徒の姿があった。

「じゃあ、やるぞ」

その生徒は、一年生の色のリボンをしている。


「なんで一年とやるんですか?」

「補習という名の追試だからだよ」

「マジすかー」


一年生は、見るからに女子の中心にいそうな女子だった。ピアスもしているし、メイクもわかるくらいしている、それに気怠そうな態度が充満している。

創太は、配られた補習用に作られたすこし簡単なテストを見て、顔をしかめた。


「なんすかこれ」

「ん?プリントだ」


創太から見て、完全にこのテストは一年生用だ。

「先生、これ二年生用なんですけど」

一年生が嫌そうにそう言うと、担任は焦りながら「まじ?」と言った。

創太は一年生とテストを交換する時、微笑んだ。だが、微笑み返すどころか、睨んできているようだった。



補習を終えて、教室に戻ると、創太の座席の周りでは女子が集まって喋っている。

「あの、どいていただけますか?」

創太が慎重に言うと、女子の一人が創太のイスから立ち上がった。

俺が座ると同時に女子たちも自分の席についた。

もうホームルームが始まるからだ。


「創太、おはよう」

「おはよう、美月」


隣の席の女子、明日原美月あすはらみつきは創太の中学から同級生で、創太の数少ない女子の友人の一人だ。

どの男子生徒よりも美月と仲が良いのだが、付き合っているといういじりはされたことがない、それもそのはず、創太はバカで容姿は中の中というなにも特徴のない男だが、美月は、学年でもトップクラスの美少女だ。


「補習どうだった?」

「一年生とうけた」


美月は学力も学年トップクラスだ。中学時代は陸上部だったので、運動もできる。

「俺は、お前みたいになりたいよ」

常々思うことを呟くと、美月は微笑を浮かべ、

「そう?」

とバカにするように言った。



放課後、やっと一日が終わった。そう思うのも束の間、ポケットに入れていた名刺を取り出した。

普通、危ない人のところに自分から進んでいくなんてバカだけど、行って確かめたくなった。


本当に妹のいる世界になるのかを。


名刺に書かれた住所の場所に電車に乗って向かった。

それほど遠くなく場所だった。

それに、そこは真新しいビルだった。


入るべきかと扉の前で困っていると、誰かが近づいてきた。

警備員かと思い、逃げる準備をしていると、それは白衣をきたおじさんだった。


「やあ、本当にきてくれるとは嬉しいよ」

創太の手を握ると、おじさんは嬉しそうな表情で創太の目を見つめた。


「じゃあ、入ろうか」

「は、はい」

おじさんに連れられ、創太は大きな真新しいビルの中へ足を踏み入れた。

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