俺の世界に咲く妹よ
奏 音葉
プロローグ 妹のいない世界
第1話 妄想だけでは終わらない
例えば、兄妹のいない男に妹ができたら、それは夢みたいな話なのだろうか、それとも最悪な話なのだろうか。
俺にとってそれは前者だ。
弟ではなく妹がほしい理由、それは単純に性別の違う年下の身内だからこそどんな風に一緒にいれるのかを知りたいからだ。
だから、俺にとってあの話は嘘だろうと詐欺だろうと試してみたい話だった。
近未来、といってもあまり世の中は進んでいない。
進んでいる近未来らしいことと言えば、パラレルワールドにいける実験が実用化されようとしていたことだけだろう。
「じゃあ、いってきます」
急ぎながら外に出ると、スマホを確認した。
「マジかよ」
あと五分で高校にいくためのバスが発車してしまう。
その危機的状況に俺は、焦りを隠せず走っている。
昨日のこと、創太はテストで赤点をとったことで補習を受けることになったそれが今日の朝なのだ。
不良生徒とは思われたくない創太は必至に走った。
バス停が見えてきた。
「よっしゃあ!バス、丁度きてる」
バスのドアのに近づくと同時にドアが閉まっていく。
「嘘だろぉ!」
創太がバス停に辿り着くとバスは発車した。
頭を抑え、その場に座り込んだ。
バスがいったせいか、周りの人影は減っている。
「終わった」
今から高校に走っていく時間があればいいが、その頃には次のバスがくるだろう。
スマホを見ると、丁度五分経っているくらいだった。
「早く発車すんなよぉ」
その時、目の前に車がとまった。
黒い高級車が目の前にある。
車の窓が開くと、そこにはヒゲを生やしたおじさんがいた。
「君、乗っていく?」
「タクシー乗る金はないっす」
「タクシーじゃないよ」
創太は、拗ねたような顔でおじさんを見つめる。
「僕の仕事に協力してくれたら、学校まで乗せていくよ」
正直、怪しさしかない男だった。
だが今の創太にはその言葉が優しさに感じて、創太は車に乗り込んだ。
「ただの変態ですか?」
「違うよ」
「じゃあ、なんですか?」
おじさんは、顔周りのヒゲをなぞるように触ると、車を運転しながらゆっくりと話出した。
「妄想とかしたことある?君」
「あります……」
ミラーに映るおじさんの顔は笑っている。
創太は怪しいと思いながら、おじさんの表情を伺う。
「君の妄想をかなえよう」
その言葉は、創太にとって意味のわからない言葉だった。
だが、一つだけわかるのは、創太には利益しかないことだった。
「ギャルゲーって知ってるか?」
「はい」
「そんな世界に行ってみたいとか思わないか?」
「まあ、思いますけど、俺は……」
言葉が詰まった。
言うのが恥ずかしかったのだ。
車は高校付近についた。もう生徒たちが登校し始めている時間なので、この車を怪しく思って見ている生徒が少なからずいる。
「妹のいる世界に行ってみたいです」
それは、創太が小さな頃からしていた妄想。
あの日、妹みたいな彼女に出会って、創太は妹がほしいとずっと思っていた。
「じゃあ、それをかなえよう」
「……は?」
「学校が終わったら、ここに来てくれ」
創太は動揺を隠せず、渡された場所の書かれた名刺を素直に受け取ってしまった。
創太が車を出ると、おじさんは、手を振ってくれた。
「なんだったんだ?」
名刺を見つめながら呟いた。
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