第3話 危機的展開は平等に
創太が連れて来られたのは、ビルの最上階の角部屋だった。といっても、最上階にはその部屋しかないようだった。
ドアは近未来的な閃光を放ち、おじさんが手をかざすとおじさんに認識したのか自動で開いた。
中に入ると、おじさんと同じように白衣をきた人たちが数名、大きなモニターを確認したり、パソコンを使っていたりしていた。
「なんですか、ここ」
創太は、見たことのない世界に息を呑んだ。
「あのモニターにはな、パラレルワールドへの入り口が表示されているんだ」
パッと見ただけではただの棒グラフが動いているだけだが、おじさんはパラレルワールドと言った。
「なんですか?それ」
「今は、安定しているな」
おじさんが近くにいた白衣の人にそう言うと、その人は持っていたタブレットをおじさんに見せていた。
「今日は何事もないのか」
理解ができない、その言葉が創太の脳裏に浮かんだ。
もしかしたら、ここは悪の秘密結社の本拠地で自分で実験しようとしているのではないかと妄想してしまうほど、今、創太は怖い。
「あの……俺はどうすれば」
創太が恐る恐るそう言うと、おじさんは思い出したかのようなポーズをとり、創太を奥の部屋に招いた。
奥の部屋は、小さな休憩スペースだ。
「考えてみてほしい」
「は、はい?」
「もし、自分のできなかったことをかなえている自分がいたらと」
創太は恐怖のあまり思考が停止寸前だが、素直に考えてみた。
頭脳明晰、容姿端麗で妹がいる自分を。
創太は想像しただけでなんだか嬉しくなった。
「パラレルワールドはそんな世界だ」
創太は残念ながらバカなのでそんな端直な言葉ではわからない。
「えっと……」
「パラレルワールドは、もしもの自分が何通りもある世界だ」
「それって」
おじさんは胸ポケットに入っていた手帳とペンを取り出し、適当なページを開くと、一つの円を書いた。そこから無数の線をつなげて引いていく。
「この円が君だとすると、この線は君にとってのパラレルワールドだ」
おじさんは、一本の線をペンでさす。
「これは、今の君の世界」
もう一本の線をまたペンでさす。
「これは、もしも君がここに来ていなかったらの世界」
また一本の線をペンでさす。
「そしてこれが、もしも君が僕と会っていなかったらという世界」
創太は徐々に理解していった。
わかってきた創太の頭は先ほどのような思考停止寸前状態ではなく、思考フル回転状態だ。
「簡単に言ってしまえばこうやって、もしもの可能性がある世界がパラレルワールドっていわれているものだ」
やっと全てを理解した創太は、やっと本題に入ろうと思えた。
「えっと、それで妹のいる世界をかなえるってどういう?」
「僕は、パラレルワールドにいくことを実験している政府の研究員なんだ」
おじさんの急なカミングアウトに創太は固まる。
そして、おじさんの名刺を取り出し見る。
「改めまして、研究員の
「あ、春瀬創太です」
やっと名前を二人正式に知れたことで、なんだか話しやすい空気に変化していっていた。
「実験の最終段階で今、困っていることがある」
「それって?」
「まだ誰もパラレルワールドに行ってみていないんだ」
どんなバカでも言ってしまいたくなるだろう、この一言を。
「それって、行けるという証拠がないのでは」
神庭は、微苦笑を浮かべ、頭をかくと、創太に言い放った。
「だから、創太くん、君にパラレルワールドに行ってきてもらいたい」
そう、多分この世界は平等に最悪がやってくるもので、行けるかも生きていられるかもわからない国の実験に車で学校まで送ってもらったからといって参加したいと思うバカはさすがにいない。
だから、創太は――走り出した。
「ま、待ってよ創太くん」
部屋の出入り口の前までくると、創太は神庭がやったように手をかざした。だが、当然、開く気配など微塵も起きない。
もうすぐ後ろに神庭はいる。
「無理だよ、開けられない」
すこしの距離にも関わらず、息を切らす神庭に創太は叫んだ。
「あ、悪の秘密結社め!!!」
その声に反応したかのように研究員たいがこちらに視線をやった。
つい、悲鳴が出そうになるが抑える。
「くそ、誰か助けてくれ」
軽い気持ちがここまで最悪の展開にさせるとは知らずに、創太は今、自分史上最悪な状況になっていると思い込んでいる。
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