第4話 どこかの自分は
逃げきれない、そんなことを思い焦る創太に神庭は、冷静に立ち止まり、大きなため息をつくと、創太を安心させるためか優しく呟いた。
「別に無理強いをするわけではない」
やっと創太は周りの白衣の研究員の目をしっかり見れた。全員、悪の秘密結社にいそうな人達ではない。
「あ、えっと」
「もしも君が実験を手伝ってくれるなら、なんだってしてやる」
神庭、真剣な眼差しを創太に向けて言い放った。
創太はこの時、神庭に対する怪しいという悪感情が一瞬で吹き飛んだ。
その場に尻もちをついて、扉に背中をつけた。その時、扉は簡単に開いた。
「さあ、逃げたいんだろ」
今、創太がこうやっている時にも創太が逃げている世界や創太が素直に受け入れている世界が創り出されている。
そう思うと、なんだか感情が溢れそうになる。
「……みたいです」
神庭は目を丸くする。
「やってみたいです」
創太は、バカだ。だから、バカな選択をしてみた。
「本当にいいのか?」
「はい」
研究員たちは全員驚いた顔をしてこちらを見ている。研究員ですら、そんなわけのわからない実験でパラレルワールドにいきたくなかったのだろうか。
神庭は創太の目の前にきて、手を出した。創太はその手を掴み、立ち上がる。
「本気か?」
「本気ですよ」
神庭は、なんだか嬉しそうだ。
神庭や数名の研究員は創太を大きなカプセルの前に連れていった。
一人しか入れないようなカプセルは、青光りを放ち、水蒸気を放っている。
手では空きそうにもないカプセルの蓋を一人の研究員がタブレット操作で開ける、神庭が創太にカプセルの中に入るよう目で合図する。
だが、創太は入ろうとする身体を止めた。
「どうした?」
「あの、これって俺がいなくなるってことですか?」
「……この世界の君は、今から行く次元の君と入れ替わりになる」
創太は言葉に詰まる。
当然だ。創太の望みで、自分のいた世界から無理やり離される自分を想像すれば罪悪感が沸く。
「ただ、自主的に行った君の方にしか元の次元の記憶な残っていない」
それは、すこしだけ切ない気もする。
「まあ、どうなるか保証はないからね。一応、スマホに専用のアプリを入れておいてくれ」
創太のスマホを手にし神庭はアプリを入れた。
創太にスマホを返すと、笑って言った。
「妹の大切にしろよ」
創太はスマホを握り、カプセルの中に入った。カプセルの中は熱がこもっていて暑苦しいが、それ以上に酸素や水蒸気が入ってきている。
外の音は微かにしか聞こえない。
徐々に音が聞こえなくなっていく、そして睡魔に襲われていく。
なにかの圧が創太の身体中にかかると、一瞬で思考や身体中の神経が停止した。
「ありがとう、任せたよ少年」
最後、それだけが脳裏に届いた。
白い世界が広がっている。多分、これは夢だろう。
創太はこの白い世界では裸になっている。だが寒さは感じない、なにもない世界なのだろう。
目を開け、周りを見渡すと、同じく全裸の自分がいた。
鏡なのかと疑ったが、もう一人の自分は目を閉じている。
創太はこの時、理解した。これが、これからいく次元の自分だと。
顔も身体つきも全てが同じの自分を見て、恐怖や疑問以上に歓喜した。
そうしていると、光が差し始めた。
あ、もう着いたんだ。
もうそこにはもう一人の創太はいない。
創太は夢から覚めるために目を閉じた。
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