一章 妹のいる世界へようこそ

第5話 妹は現実にいる

「……きて」

誰かの声が寝ている創太に届く。

「起きて」

身体が揺らされ、その目覚まし代わりの少女の声が創太の目を覚まさせた。

なんだか緊張感がある。目をゆっくりと開けた。


「お兄ちゃん、起きて」


その言葉は目を開けて見るより先に放たれた。確信の言葉だ。

創太は、その妹を見た。

「……可愛い」

まず、第一声がそれだった。

創太からしても驚くほど妹は可愛かった。目は大きくて丸い、小顔で世間一般的に言えば、美少女というジャンルに入るタイプだ。


「お兄ちゃん、朝から頭おかしくなった?」

「い、いや……大丈夫」

創太が起き上がると、妹は、起こすという使命を終えてか、部屋を出て行った。

目を何度も擦り、頬を数回つねってみたが、現実と身体が言っている。

創太は嬉しさのあまり、頬を緩ませた。

と、そこでスマホが鳴った。

「なんだ?」

スマホのロック画面には見たことない通知が入っている。


「これってまさか」

タップすると、神庭がいれたであろうアプリが起動した。

『次元用アプリ(仮)』と書かれたアプリにはいくつかのアプリ内でも利用できるものがあり、メッセージと書かれたアイコンをタップすると、通知の内容が出てきた。


『無事にいけたか?』


創太は、すぐさま『はい』と送る。

そして、ついに創太はリビングへと向かった。


リビングには母と父、そして妹がいた。

創太は朝食の並ぶ机のいつも座っているイスに座った。

「もう時間ないよ、お兄ちゃん」

「あ、ああ」

この状況はまさに創太が妄想していた状況だった。


すず、お前も学校に遅れるなよ」

父がそう言って、仕事に向かった。

創太はやっと妹――鈴の名前を知れた。

「か、母さん、醤油とって」

「はい」

創太は今、これまでにないくらいの緊張感があった。

どうしたらいいかわからないのだ。


「な、なあ鈴、お前って今いくつだっけ?」

この質問をするのは正しいのだろうかと模索しながら問う。

「え、十五歳だよ」

「ああ、えっと」

「中学三年生で」

なんか不自然過ぎないかと創太は自分の行動に反省する。

だが、鈴はなにもおかしいという素振りをせず、朝食を終えた。


二歳下で美少女の妹、創太にはこれだけでもグランプリぐらい嬉しいものだった。


創太も食べ終わり、高校に行く準備をしていると、鈴が着替えている創太の部屋に入ってきた。

「あ、ごめん」

丁度、ズボンを履いている最中だったせいかそう言って扉を閉めた。

「べ、別にいいよ」

そう言うと、鈴はすぐに入ってきてベッドに座った。

「ん?」

「え?」

どうして待っているのようにしているのかと創太は考えた。


「えっと……」

「今日、お兄ちゃんどうしたの?」

「いや、いろいろ状況整理が追いつかなくて」

ネクタイを締め終わり、鞄をとると、鈴も立ち上がった。

そして、玄関まで一緒に行くと、鈴が「いってきます」と言って、扉を開けた。


「学校、いつも一緒に行ってるでしょ?」

「そ、そうだな」

創太のいつものバス停までの道は、確かに中学校への道のりでもある。だからといって妹と登校とか夢のシチュエーション過ぎないか?と創太は心の中で叫ぶ。


だが、バス停まで一言も話さずに歩いた。


バス停につくと、鈴は創太に手を振って近くにいた友人のもとへと行ってしまった。

バス待ちの人達の後ろに並ぶ。

ここで創太は神庭と出会い、今ここにいる、そう思うと、創太はなんだか神庭のすごさを実感した。

バスが停車すると、タイミングよく美月が並んだ。


「お、おはよう創太」

「おはよう」

二人で一緒にバスに乗り込み、丁度よく開いた二人用の座席に座った。


「今日はいつもより遅くない?」

「う、うん寝坊しちゃって」

よく見たら、美月の後ろ髪が跳ねていた。

創太はなにも考えず、跳ねた髪の毛を治そうと触った。


「え?!」

「ご、ごめん。髪の毛、跳ねてたから」

「う、嘘ぉ」

美月は跳ねた髪の毛を抑え、どうにか治そうとする。だが、髪の毛は跳ねる。

創太はその光景に笑みを溢した。


「わ、笑うなぁ」


頬を膨らませ起こったような素振りをする美月に創太は、安心できた。

こうして、妹のいる世界が始まっていく。

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