第7話 初めてのおつかい
放課後、創太が帰ろうとすると、スマホに通知が入った。
また神庭からかと思うと、それは違っていた。鈴からメッセージが来ていた。
創太は咄嗟に急いでメッセージを確認する。
『新作のアイス買ってきて』
ただのおつかいだが、創太にとっては嬉しいお願いである。
一人盛り上がっている創太に晴彦が近づいてきた。
「なににやけてんだよ」
そう言われて、気づく、創太はメッセージを見て頬が緩んだことに。
「今日、カラオケ行くんだけど創太はどう?」
「俺は、おつかいが」
晴彦はジト目になった。
「子供か?」
普通、そんな反応をされる。
だが、創太にとって今の状況は夢だったのだ。
そこに美月もやってきた。
「晴彦くん、創太は?」
「無理だって、おつかいだってさ」
美月は創太を凝視する。
当然の反応である。
美月は、創太に近づき堂々とスマホを覗く。
「妹さんから?」
創太は咄嗟にスマホを胸で抱き、恥ずかしそうに美月に呟いた。
「アイス買ってきてって言われたから」
そんな創太に美月は微笑を浮かべながら言った。
「珍しいね、ちゃんと妹さんのお願いをかなえるの」
この次元の創太にとっては不自然な行動なのかもしれない、そうやっと思った創太は慌てて、鞄を持って教室を出た。
廊下を早歩きで進み、下駄箱に向かった。
下駄箱付近には朝と同じく生徒会がいる。
「さようなら」
創太は焦っていたせいか、朝注意されたことを忘れて素通りしてしまった。
下駄箱で上履きから下履きに履き替えている最中、創太は肩を叩かれた。
「な、なんだよ晴彦」
晴彦だと思った創太は軽い口調でそう言って振り返る。
当然、晴彦ではなく不機嫌そうな生徒会長だ。
「か、会長!」
驚きのあまり声が裏返った。
「君、私は朝、なんて言った?」
すっかり朝のことを忘れていた創太は冷や汗を浮かべ、生徒会長を見つめる。
「私は君に挨拶をしろと言ったよな?」
創太はコクリと頷く。
生徒会はまるで鬼のような状態だ。
「す、すみませんでした」
その場で創太は頭を下げて謝罪した。
深々と謝罪する創太を周りの生徒は怪しそうに見ている。
だが、生徒会長は違っていた。
「それだけ威勢があって、なぜ挨拶をしない」
大きくため息をつくと、生徒会長はその場を離れていった。
創太は、そこから急いでバス停に向かった。今までで一番の全速力だ。
バスに乗り込み、自宅近くのバス停に停車すると、家ではなく、コンビニに向かった。
「新作のアイスは、えっと」
アイスを買って家に帰る。
妹のいる自宅に帰って来たのだ。
不思議な緊張感で手汗が酷い、だが創太は扉を開けた。
「お兄ちゃん、買ってきた?」
玄関先で待っていた鈴はすぐさま創太からアイスを受け取ると、リビングに入っていった。
創太もリビングに入ると、鈴はソファーに座りテレビを観ながらアイスを食べ始めていた。
「お兄ちゃん、これ美味しいよ!」
そう満面の笑みで言う鈴は創太にアイスがすくわれたスプーンを向ける。
「食べてみてよ」
創太の緊張感は増した。
創太は冷静を装い、スプーンに口を近づける。
「なんちゃって、あげないもん」
鈴はすぐにスプーンを自分の口に入れた。
期待をさせて自分で食べるとは、妹ではなかったら創太は完全に嫌いになっている。
「お兄ちゃん、ありがとう」
こちらを見ずにそう言った鈴の声は照れくさそうだった。
創太は今、最高に妹という存在が好きになっている。
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