第9話 選ばれた瞬間
放課後、創太は美月と気まずい空気になっていた。
隣の席なのにあのあと一度も会話らしい会話をできていない。
きちんと話せるようにしようと思い、美月に声をかけようとした時だった。
「このクラスに春瀬創太という男はいるか」
扉の方でそんな声が聞こえた。
なぜだかクラスの男子はざわついている。
創太は扉の方に身体を向けた。
「春瀬創太くん、君にお願いがある」
そう言って近づいてきたのは生徒会長だった。
男子から美人と評判の生徒会長から創太のところに出向くという状況にクラス中が凝視している。
「私の名前は、
周知の事実だが、創太は名前までは知らなかったので改めて知った。
楓恋は創太の手を握り、言い放った。
「生徒会の手伝いをしてくれないか?」
創太はどうしたらいいかわからなかったのと、周りからの視線に怯えていたのが重なり合い、頷いてしまった。
「ありがとう」
頷いたのはいいが、創太は今、この状況を理解していない。
「それで、今から生徒会室に来てくれないかな?」
また頷く。
楓恋は全て了承する創太に疑いの目すら向けず、その場を離れていった。
「創太、お前生徒会長とどうやって仲良くなったんだよ」
そう言ってきたのは晴彦だ。
創太にも理由はわからない。
「こっちが聞きたいよ」
棒立ち状態になった創太は、ふと思い出した。
美月と話せるようにすると決めたことを。
「晴彦、美月は?」
横にいる晴彦に聞くと、晴彦は教室を見渡した。
「いないよ、帰ったかもな」
大きなため息を吐く創太、それを見て晴彦は疑うように聞く。
「もしかしてなにかあった?」
それに創太は顔を赤くして反応した。
「ねぇよ!」
逃げるように鞄を持って、生徒会室に向かう。教室を出るとき、創太はもう一度晴彦に言った。
「なにもないから!」
あからさまになにかあった態度だと晴彦は思った。
生徒会室に着くと、生徒会室から怒っている声がした。
ゆっくり扉を開けると、楓恋が一人の女子を叱っていた。
その女子は――佐上美結だ。
「佐上さん?」
「あ、昨日の先輩」
創太に意識を向けた美結に楓恋が激怒する。
「今日のことはあの先生が問題にしなかったからよかったんだ。わかっているね?」
創太は首を傾げ、近くにいた生徒会の人たちのところにいく。
「どうしたんですか?」
一人の男子に尋ねてみる。
「今日、科学教科室であの子、いろいろしようとしたらしくて」
創太は目を丸くした。
あの時来ていたのが、美結だったことに気づいたのだ。
楓恋は叱り終わったのか、美結を生徒会室から退室させる。
創太は、気になって、生徒会室を出て、美結に近づく。
「あの、佐上さん」
声をかけると、美結はすぐに気がついてこちらに振り返る。
なぜか笑っている。
「ねえ、先輩」
美結はゆっくり距離を縮め、創太の耳元で呟いた。
「今日、どうして隠れたんですか?」
創太は言葉を失った。
隠れたのを見られていたのだ。
美結は、言い終わるとすぐに下駄箱の方に向き、鼻歌を歌いながら歩いて行った。
生徒会室に戻ると、全員が席についていた。
創太は座るべきか迷い、扉の前に立つ。
「創太くん、君に仕事を頼むのはたった一週間だけだ」
楓恋は端直に言う。
「君には毎日、朝、挨拶をしてもらいたい。それと、できれば今度の生徒集会の資料制作を手伝ってもらえれば助かる」
創太はどうして自分が選ばれたか気になったが聞かずに頷く。
「どうして一週間なのかと思うかもしれない、その理由は書記の生徒が一週間入院することが決まったからだ」
楓恋は創太を指さす。
「そして、どうして君なのかと聞かれれば、君には威厳があったからだ」
楓恋の目は本気だ。
二人目を合わせ、創太には緊張感が走り、楓恋には期待が走る。
「わかりました。一週間ぐらいなら、やります」
言い方としては素直ではないが、創太はやり切ろうと思った。
妹のいる世界の創太は、いつもの創太より自身のある表情になる。
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