第16話 PvP(Player Versus Player)②
「ふんっ!」
気合とともに魔法の戦槌が光の弧を描き、ウォーハンマー+1が群がるスケルトンを一息で粉砕していく。
「おお……!」
「押し込めェ!」
「おう!」
部屋に突入したダイゴを押し包もうとしたアンデッド達だが、Lv1未満のモンスターであるスケルトンやゾンビではLv5
「ダイゴさん!」
「おう。……広いな」
「何か言いましたか?」
「いや……」
陣形の中に戻ったダイゴが呟く。見渡せばそこは墓場。林立する墓石の合間に低級アンデッドの影が見え隠れする。注目すべきはその広さだ。通常のダンジョンの部屋の四個分ほどはある。部屋を合体させることでアンデッドの大群を展開できるようにしたのだろう。だが……。
「陣形を崩すな! 乱戦に持ち込ませるなよ」
そもそも、ゾンビやスケルトンのステータスは非常に低い。種族特性である
故に、不確定要素はデュラハンとその主の
不意に、均衡が崩れた。
「うわああああ!」
何かに耐えかねたように、一人の男が叫びながら陣形から飛び出す。振り返ったその顔は恐怖に満ちていて、止める間もなくアンデッドの群れに飛び込んでいく。
男の姿が群れの中に消えた直後、突き刺したり叩きつけるような音と共に、叫びは悲鳴へと変わった。悲鳴はすぐに止む。それは嫌な沈黙だった。
「ひぃ……」
「な、なんだあいつ、何か見ちまったような顔で……」
「イリス様を怒らせたんだぁ……」
動揺が波のように伝わって、陣形が揺らぐ。ならず者たちを連れてきたのは失敗だったか、と歯噛みする。現地の者にイリスの名が与える影響力は思った以上で、動揺が収まる気配はない。揺らいだ陣形から引きずり出されれば、すぐに大群が飲み込んで寄ってたかって武器を振り下ろす。
悲鳴が動揺を呼び、動揺が死を招く。悪循環だ。要所に配置した直属の部下たちの働きもあって、陣形は決定的には崩れてこそいないが、これ以上は危険だ。故に、ダイゴは決断する。
「クリス」
「はい」
「使え」
何を、と聞き返すこともなく、副官が戦神グリムのハンマーを模した聖印を掲げる。
「神よ! 不浄なる者たちを祓いたまえ! 〈
聖印から迸るのは光。ダンジョンの暗闇をも押し退けるそれはアンデッドを祓う光だ。〈
「今だ! 討ち取れ!」
「お、おお!」
元より、一対一ではただの人間にも劣る低級アンデッドだ。逃げ出そうとする者に巻き込まれて転倒する者などもいる中で、統率の取れた相手にまともに抵抗できるわけもない。ダイゴ本人も繰り出して、瞬く間にアンデッドたちはその数を減らしていった。
終わってみればあっけないものだ。ふう、と額の汗を拭い、周りを見渡す。魔術師もデュラハンもいない。恐らく陣形が崩れるのを待っていたのだろうが、奥の手を使われた時点で退散したのだろう。
「被害は?」
「四人ほどやられました。腹をぱっくりやられたのが一人いて、あとは軽傷が数人」
「クリス、重傷の奴は治療してやれ」
「はい」
たた、と駆け出していく若い神官の後ろ姿を見送り、思案する。予想外に手こずった、というより相手はここにほぼ全戦力を集めたのだろう。あれだけの数のアンデッドだ。こちらも奥の手を使わされたが、相手にはもう打つ手はない。神官の回復呪文をここで使ってもおそらく問題はない。
それよりも気になるのは墓場の戦闘時の特殊能力だ。墓場で人型生物が死ぬと、普段の自動生産とは別に、その合計レベル分までのアンデッドが任意で作成できるようになる。通常の1部屋分の墓場ではそれでも最大で1レベルのアンデッドが数体生まれるだけだが、部屋を合体させより大きな墓場にすることで作成可能なアンデッドの最大レベルも上がる。
おそらく相手の作戦はこうだ。入り口で同士討ちを起こさせ、こちらの戦力と士気を削る。しかる後にこの4部屋を合体させた大部屋で決戦を挑み、部屋の広さに対して狭い入り口で膠着させることで、戦いながら追加の強力なアンデッドの作成完了まで保たせる。あくまで4部屋なのはアンデッドで満たすことでこちらが展開しにくくなる広さだからか。
悪くない作戦だ。2Lv以上のアンデッドには即死能力を持つ者や物理耐性などもちらほらでてきて、厄介この上ない。ダンジョン戦に慣れている者の発想だ。だが、これが限界だ。
「追加が出てくる前に奥まで行くぞ。相手はあと二人だけだ」
「おう!」
相手はよくやったが、結果は変わらない。Lv3が二人でひっくり返せる盤面でもない。玉座の間に行けば、それで終わりだ。ダイゴは戦槌を担ぎ直して歩き始めた。
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