第1話 低いところから失礼します


「っ、はあっ、はっ」


 覚醒。荒く息を吐く。体が重い。しばらく使っていなかったかのようだ。


「ぁ、ここ、は……?」


 身を起こし、周囲を見渡す。先ほどとは違う場所のようだ。

 そこは石造りの簡素な広間だった。飾り気のないその広間には、奥の一段上がったところに玉座が、その後ろには祭壇が安置されていた。


「夢、じゃない、よな……」


 手を握り開きすると、こわばった手に血が通うのを感じる。立ってみれば、石の上で寝ていたからか、体の節々が痛い。なにより、体中に感じる冷たさが、この世界が現実であると叫んでいた。


「……って、さむっ!」


 見下ろせば、寒いのも当たり前、肌着すら着ていない。一人きり、生まれたままの姿で見知らぬ場所にいるという危機感と、それ以前の寒さ。その二つが後ろ肩からかけられた何やら柔らかな布で緩和される。


「どうぞ、これを」

「あ、ああ、ありがとう。……って」


 硬直。ぎぎ、と音がしそうな遅さで振り向く。


「どういたしましたか?」


 そこにいたのは鎧姿の、声からしておそらく女性。おそらく、と言ったのは確証が持てなかったからだ。なんせそれには、首がなかった。


「あ、自己紹介がまだでしたね。私はアリア。低いところから失礼します」

「わあっ!」

「カケル様!?」


 驚いて尻餅をつく。慌てて駆け寄って支える彼女? の後ろには床に置かれた生首。兜に納まったそれが、心配そうな顔で、先程から聞こえていたのと同じ声を出す。そこまでが僕の処理能力の限界だった。


 再び、暗転。

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