第17話 PvP(Player Versus Player)③
ダイゴの推論を裏付けるように、次の部屋には一切の敵がいなかった。
アンデッドすらいない墓場は、しかしかえって不気味だ。ごくりと誰かが息を呑む音がよく響く。
(入り口で1部屋、さっきので4部屋。ここも含めてあと4部屋か)
だが、肝心の扉が見つからない。
「ここに来て隠し扉かよ。往生際が悪い」
さっそく始まる捜索は、しかし長くは続かない。墓石の陰のレバーを引くと、壁から隠されていた扉の輪郭が浮き上がる。
「罠もないし、意外とヌルいっすね」
「言ったろ」
連れてきたのは遺跡荒らしたち。戦闘ではさほど役に立たなくても、こういったギミックはお手の物だ。仲間意識も薄く、四人の死にも取り分が増えた程度にしか思っていないだろう。
その先の部屋もやはり敵はおらず、罠もない中、ただ隠し扉を探す単調な攻略が続く。空気の弛緩を感じるが、ダイゴも特にそれを引き締めようとはしない。初期ダンジョンに与えられたリソースを考えれば、相手はよくやった方だ。だがそれは同時に限界まで絞り尽くしたことを意味している。
もう、相手に打つ手はない。そのはずだった。
9部屋目も無事隠し扉を見つけ、玉座の間への扉を開く。即座に戦闘になった時に備え、皆この時ばかりは臨戦態勢だ。
だが、そこにはあるべきものは何もなかった。
「あ!?」
驚愕の声と共に、ダイゴが部屋に入って見渡す。だが、やはりない。玉座も祭壇もダンジョンコアさえもそこにはなく、これまでと同じような墓場だ。代わりと言わんばかりに、部屋の中央にはこれ見よがしに少女が縛られている。
猿轡も噛まされ、
「どういうこった!」
激昂しながらも罠の可能性を考慮してひとまず部下たちを全員部屋に入れる。皆不思議そうに首を傾げているが、それでもやはりそこがただの墓場なのは変わらない。存在しないはずの10部屋目に、ダイゴたちはひどく混乱していた。
〈
「罠です! 早く、早く出てください!」
弾かれたように、部下たちの視線が入り口の一点に集中する。そこには黒いローブ姿の少年が立っていた。
「ヤァロウ……!」
ダイゴが手斧に手をかけた瞬間、少年は身を翻し、入ってきた扉が閉まる。
「馬鹿野郎! 追え!」
「し、しかし……」
一番近くにいた者が扉を開けようとするが、開かない。
「鍵がかけられてます!」
「しゃらくせえ……っ!?」
駆け寄って戦槌を振り下ろすが、並の扉ならば打ち破る一撃が、しかしどういうことか弾き返される。鋼鉄の扉を殴りつけたような手応え。
「んだこりゃ! 魔法の戦槌だぞ! そもそも、なんで10部屋目があるんだよ!」
「……Lv2呪文、〈
「あ”!?」
振り返ると、びくりとシオリが震える。同じ魔術師として、使われた呪文はわかるのだろう。だが、それでは筋が通らない。
「どういうこった。あいつはそんな呪文は習得してないはずだろ」
「本人の魔法じゃなくて、多分ダンジョンギミックとして扉に仕込んだんです」
「それじゃあ辻褄が合わねえ。こんだけ墓場作ったなら、Lv2罠なんて置けて一つだ。入り口のダークネ……ぁ?」
それは微かな気付き。ダンジョン入り口で使われたLv2呪文〈
そして、その時のことを思い出す内に、ダイゴの頭の中で全てが繋がっていく。
なぜ戦闘中ではなく入り口で〈
今はラウンド開始から何分経った?
「っ、イカレ小僧が!」
ガン! ガン! と弾かれながらも扉に戦槌を叩きつけるダイゴに、部下たちが怯えたような目を向ける。
「と、閉じ込められたって言ってもここが一番奥なんだから、ダンジョンコアを確保してしまえば……」
「ここは玉座の間じゃねえ!」
「それじゃあ、どこに……」
「あ”あ”!?」
ガゴン! と音を立てて、戦槌が扉にめり込む。
「俺たちが入ってきた、最初の部屋、あれが玉座の間だよ!」
今日から死霊術師 栗殻コレノ @zeno1176
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