第8話 お困りですか
「ど、どうしようアリア」
「お、落ち着いてくださいカケル様! そうだ。魔法、魔法でどうにかなりませんか?」
「魔法と言っても……」
占術と言って、物を探す魔法は確かに存在する。例えば2Lv呪文〈
「いや……ダメだ。僕の呪文リストには役に立ちそうな呪文はない」
「そんな……でもここは魔術師ギルドなんですよね? 誰かに頼めば……」
取り乱しているアリアを見ているうちに、すうっと頭が冷えて思考が巡りだす。
「……いや、それには二つ問題がある」
「問題、ですか?」
「うん。まず、魔法発動を無料でやってくれる人は多分いない。皆それが食い扶持だからね」
ゲームでは魔法サービスの利用は最低でも50gpからだった。この世界の価値基準はわからないけれど、祭りの屋台の怪しい占いでも1sp、銀貨一枚は取るのだ。それより安いということもないだろう。
「それにもう一つ、そもそも他の人が占術を発動してくれても意味が無いんだ」
「それはどういう……?」
「探す物の特徴がわかってないと、占術は上手く効果を発揮しない。この場合、僕自身が使わないとダメなんだ」
「そんな……」
呪文の習得はLvアップ以外でも、
ギリ……と唇を噛む。能天気にお祭りを楽しんでいた自分が恨めしい。だが、いくら考えても解決策は浮かんでこない。立場上、衛兵に相談するのも躊躇われ、もうこれは諦めた方がいいと結論付けようとした時だった。
「何か、お困りですか?」
誰か、話しかけてくる。ちらりと見ると、そこにいたのはもはや見慣れた黒いローブにフード。声は小さくて聞き取りにくいが、意外に若い、というよりも少女のもののように感じた。華奢な肩からローブがずり落ちそうになっているのがその印象を補強する。
「いえ、お構いなく」
そこまで見て取って、しかし僕はなるべく素っ気なく聞こえるように声を出す。
「なぜですカケル様? 彼女が助けになってくれるのでは……」
「人と関わらないに越したことはないよ。第一、この人が本当に良い人でも、支払える対価がない」
「あの……お金なら結構です」
再び、か細い少女の声。そこに至って、僕はきちんと彼女に向き直る。ローブ越しに肩が震えた。フードから覗く黒い目も気弱そうに逸らされていて、しかしその割には退く様子はない。そのちぐはぐさが余計に怪しく、つい語調が強くなる。
「なぜです? 僕とあなたは初対面のはず。なぜ見ず知らずの僕にそこまでしようとするんですか?」
「あの……いえ、その……」
「どうしたんですか? 理由があるなら、説明してください」
「カケル様、それくらいに……」
「アリア。僕はもう既に一度失敗してる。僕一人ならいいけど、ダンジョンを預かる身として、これ以上失敗する訳にはいかない」
「あの!」
時が止まる。僕もアリアも、そして少女自身すらも、予想外の大声に驚いているようだった。だが、それ以上に僕を驚かせたのは、跳ね除けられたフードの下の彼女の顔。
「えっと、同じプレイヤーだからじゃ、ダメですか……?」
いかにもファンタジー世界らしい西洋顔の人ばかりな中で、ある種異質なその顔立ち。そう、彼女は僕と同じく、日本人だった。
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