第4話 ハカタンって?


「それで、カケルはどんなダンジョンにするのかの?」


 ダンジョンコアを持っていると、ダンジョンとの深い繋がりを自身の中に感じる。それに集中すると、ゲームの時はメニューで管理していた事柄が、自身の身体のことのように伝わってくる。それは今まで経験したことのない感覚ながら、なぜだか僕にはとても馴染んで、勝手に笑みが浮かぶ。


「まずはリソースの確認ですかね」


 ダンジョンはいくつかの要素で構成されている。


 まずは魔力マナ。設備を稼働させたり、モンスターを生産するのに必要なリソースで、ダンジョンをただのほら穴ではなく生きた要塞とする、いわば血液のようなものだ。一般的に、ダンジョンを構築するならば、まずはダンジョン内で生産されるマナと消費されるマナが釣り合うようにするのが鉄則だ。


 次に設備。毒ガスや暗闇などの防衛設備と、モンスターやマナ等を生産する生産設備がある。中にはダンジョン・マスターを強化する設備などもあり、どんな設備を配置するかがダンジョンの方向性を決めると言っていい。


 モンスター。ダンジョン防衛の要であるモンスターには全てのダンジョンで生産できる汎用ユニットと、仕える神格によって使役できる固有ユニット、そして通常は生産できないイベントユニットの三種類がある。生産と維持の双方にリソースを必要とし、強力なものほど要求リソースは重くなるため、作ればいいというわけではないのも考え物。


 最後に空間。ダンジョンの強力さと直結する、基本にして最も重要な要素だ。部屋が多いほど最奥までが長くなるだけでなく、空間にはその広さに応じて配置できる物に許容限界がある。いかに強大なモンスターを育てても、どんな防衛設備を整えても、配置する空間がなければ話にならない。

 初期ならば九つの部屋と玉座の間。ここから拡張するには多額の金貨か他のダンジョンの略奪・吸収が必要で、どちらも今は考えないことにする。


「うーん」


 状態を確認した限り、やはり今いるダンジョンはゲーム開始時のまっさらなダンジョンと全く同じなようだ。金庫には簡単な改修のために幾許かの金貨が与えられている。実際に石材などを買い込むのではなく、主神に奉納することで神域であるダンジョンを作り変えてもらうという形だ。


「イリスだしやっぱり最初は墓単が安パイなんだろうけど……」

「イリスじゃ」

「そうでした」

「それでそのハカタンってのはなんじゃ」

「本人に説明するのも変な話だなあ。まあ、ダンジョンを墓場だけで構築することですよ」

「ほう、墓場だけとな! 聞いたかアリア? お前の主はなかなか見る目があるのう」

「はい、それはもう」


 なんだか嬉しそうなのはやはり自分の司る分野だからだろうか? アリアにまで絡む女神を傍目に、自身が攻略wikiに書いたイリス初心者のためのテンプレを思い出す。


 マナを生産する設備を通称と言い、神格によっては固有の土地を持つことがある。死を司る神格であるイリスが持つ固有の土地が墓地だ。


 墓地は鍾乳洞や林などの汎用の土地よりも、平時のマナの生産力で格段に劣る。代わりに墓地はいくつかの特殊能力を持つ。その一つが下級アンデッドの自動生産だ。


 墓地は土地でありながら、同時にいわゆると呼ばれるモンスター生産施設の能力も持つ。ただし自動で行われるためにこの生産の制御はできず、生産されるのは最下級のアンデッドであるスケルトンやゾンビばかりだが、生産費用がかからないのが大きな特徴だ。


 種族として飲食不要かつ疲労無効のアンデッドは維持費もほとんどなく、生み出したアンデッドは兵力として貯めておける。多少作りすぎたところで、墓地が生み出すマナで十分に賄える。


 と、このように墓単とは下級アンデッドを自動で生み出す墓地でダンジョンを染めることで、ダンジョン中をアンデッドだらけにする、いわゆるモンスターハウス型の構築だ。そもそもが基礎生産設備である墓地は設置費用も安く、また基本的にマナがあふれるために後の改築もやりやすい。ダンジョンの初期形態として安定して優秀だ。


「けどなあ……」


 しかし、弱点もある。アンデッドは様々な優秀な種族特性を持つが、対策された時に非常に弱いのだ。例えば神官クレリック聖騎士パラディンの持つ特殊技能スキル不死者退散ターン・アンデッド。回数に制限こそあれ、範囲内のアンデッドを纏めて散らす厄介なスキルだ。そういったクラスが敵にいるだけで、墓単の要である下級アンデッドによる数の暴力は通じなくなる。


 また、個々のステータスが非常に低いのも時と場合によっては考え物だ。数々の優秀な種族特性や特殊能力の代償として、多くのアンデッドは同レベル帯の他種族と比べステータスが低い。最下級アンデッドであるスケルトンやゾンビとなるとそれが顕著だ。仮にそれらだけでダンジョンを構築して、相手に大物がいた場合、モンスター達ではダメージを与えることすらできない可能性もある。


「……ん? ていうか、戦う相手っているのか?」


 と、そこで思い浮かんだのは根本的な疑問。『ダンジョン・マスター』ではPvE、PvP共に存在した。では、この世界では?


「イリス……様。この世界には文明はあるんですよね?」

「おお。ここから一刻もかからぬ距離にもヒトの街があるぞ」

「じゃあ、他に僕みたいな……つまりこうしてダンジョンを与えられた、プレイヤーはいるんですか?」

「うむ。おるぞ」

「じゃあ……近くにいるプレイヤーってわかります?」

「ん? 知らん」


 興味なさそうに答えるイリスは、本当に知らないのか、それとも説明する気がないのか怪しい。それより早く墓地を建てようぞとうるさい女神を尻目に、考える。


 『ダンジョン・マスター』は非常に相性が大きいゲームだった。仮想敵に合わせてダンジョンを組み換え、モンスターを育て、あるいは傭兵を雇う。それは情報が物を言う世界だ。そもそもイリスの説明不足で、自分がどういう状況なのかもよくわかってはいない。出た結論は一つだった。


「街に……行くか」

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