第3話 ダンジョンコア


 広間に、九つの部屋。階段はなく、一階層のみ。モンスターはアリアと名乗ったデュラハンとマスターの僕しかいない。それが僕のダンジョンの全てだった。有り体に言って。


「しょぼいの」

「そらそうでしょうね……」


 広間――ダンジョンの中枢となる玉座の間に僕ら三人はいた。と言っても玉座には、イリスが当然のように座っていて、僕、そしてアリアは石の床に正座している。正直言って、膝が痛い。


「これ、初期ダンジョンでしょう。しかもアップグレードしてない」


 『ダンジョン・マスター』でもそうだった。ゲーム開始時、プレイヤーに与えられるのは、たった一階層のダンジョンとは名ばかりのほら穴。それをいかに育て、防衛するかはプレイヤーの裁量次第だ。2Dグラフィックと現実という差こそあれど、この殺風景な初期部屋にはどこか懐かしさすらある。


「そうじゃ。予習は十分なようじゃの」

「予習て。まあ、それじゃ、あるんですよね?ダンジョンコア」


 ダンジョンコア。それは文字通りダンジョンの核だ。ゲームの設定上、ダンジョンの主に支配の証として神から授けられる遺物アーティファクトであるそれは、ゲーム的にはダンジョンを編集する際のコンソールとなる他、ダンジョン攻防戦における最終目標でもある。


 ダンジョンで最も重要なオブジェクトであるこれは玉座の間から動かすことはできず、必然ダンジョンとはどのような構造であれ、究極的には玉座の間を最奥に置き、守り抜く形になる。


「あるぞ。ほれ」

「おわっ!?」


 だから、そんな大事なものを放り投げないでほしいものだ。どうにか両手でキャッチしたものは、黒い輝きを帯びた掌大の宝石。それこそが、ダンジョンの心臓、ダンジョンコアであった。


「こんな……感じだったのか」


 画面越しに見ていた時はただのオブジェクトだったそれ。しかし、こうして現実に見ると、吸い込まれそうなほどに美しく、そしてなんだか愛おしい。

 ダンジョンコアの大きさはダンジョンの規模と直結している。まだ両手に収まる程度のそれは、このダンジョンの小ささを端的に表しているのだろう。


「お主、笑っているぞ」

「えっ?」


 だが、僕にはその小ささは可能性に思えた。イリスに指摘されて、顔を撫でる。歪んだそれは笑いの形。

 どういうわけか、この世界は『ダンジョン・マスター』そのままにできているらしい。つまり、イリスの言っていた信仰集めとは、彼女の神殿であるダンジョンの育成、拡張のことだろう。


 それならば、僕にもなんとかできそうだった。

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