第16話
気配の男は通り過ぎていく。
内心安堵せずにはいられない。今まで感じた事の無い重圧が身体を緊張させる。
男がスタスタと通いの店に入って行くことを確認し路地裏に入りる。
人通りが無い事を確認して、監視にちょうど良い建物の凹凸を了解しながら登っていく。魔力を使うとバレル可能性があがるので、最小限に留める。
無事に屋根裏に着くと直ぐに寝転がり姿を隠す。
後は対象が店を出るまで待つだけだ。
対象から離れていて表通りには多くの人が雨の中ごった返している。まずバレないだろう。
男が店から出てきたのは三時間後だった。酒が入っているのか遠目からでも酔っ払っている事がわかる。
立ち去る方角を確認し今日一日が終わる。
◆◆◆
次の日もまた次の日も確認した。出てくる時刻は誤差があるも他の行動パターンは同じだ。
狙うポイントは店を出た数秒後。その時は店の女達が出送りに来ていて意識は女にいっている。ここしかない、チャンスは一回だ。
時間が無い以上ここでやり切るしか無い。やれなければリリーも俺も共倒れだ。
路地に身を隠し、その時を待つ。
心臓の鼓動はいつも通り、意識も明確だ。コンディションは悪くない。久しぶりではあるが染み付いたものが落ちていない事に安堵する。
そしてその時がきた。店内から外まで響く男の声が合図となる。深く被ったローブと仮面を確認し人混みに紛れ、タイミングを調整するように歩幅を変える。
男が店から出ると、後ろにいる女達に身体をむける。
ーー今だ!
剣を抜き一気にかけ出す。
足音を殺しながらも人混みをかきわけ素早く詰め寄る。
背後から一振りで確実に殺す。
男の背後にたどり着きギリギリで魔力を這わせ斬りかかる。
完璧なタイミングだ。今までの経験が勝利の瞬間を確信する。
ーーガキィン!
振り抜いた剣に凄まじい抵抗がかかる。
ーーな、なんだこいつ、人間なのか?
男は体をねじり、態勢を崩しながらも剣を抜き背後に振りかぶってきた。その際、男の目の前に居た娼婦は切り裂かれたが、その剣の速度は衰えず、俺の剣を止める。
まずい、この勢いのままここで殺さなければ殺される。
限界まで魔力を剣に注ぎ体のあちこちが悲鳴を上げる。
このまま剣ごと斬り伏せる。
鍔迫り合う剣が、お互いにカチカチと唸りを上げる。
「ぐぬぬぬ!きさ、ま、俺をだれ、だと」
だめだ余りに硬すぎる。俺の剣が先に折れるのが先だ。
力いっぱい押し合っている力を一気に抜く。男は対応できず前のめりに態勢を崩し今にも転倒する勢いだ。
この状態なら。
首筋を切り裂こうと剣をはしらせる。
しかし男は転倒している体を空中で無理矢理動かし俺の体に斬りかかる。
その瞬間、全身を身震いさせるほどの死の恐怖に襲われ体は勝手に回避行動をとる。
ーーグチャ。
胸を切り裂かれ、痛みで意識が飛びそうになる。
だがこれで……。
男はドスンと地面に転倒する。
ーーもらった!
男に向かって剣を突き出す。
ーーガシッ
剣は男に突き刺ささらなかった。
「この化物め!」
堪らずに声を張り上げる。
男は自らの剣を手放し、俺の刃を素手で掴みとり抵抗する。
持てる全ての魔力を全身に注ぎ込み、力いっぱい男に押し込むと男の手に集まっている魔力壁が削れ始める。
「まて、き、さま」
「うおおぉぉぉぉ!」
ーーグチャ
肉を突き破る感覚が手に伝わり、勝利を教えてくれる。
やっ、た……や、りきった、ぞリリー。
「そいつを捕まえろ!」
完璧な奇襲であったはずが手痛い反撃をくらった。
まずい……はやく逃げないと。乱れる呼吸を必死に保ち、足を動かし逃げ始める。しかしなかなか追手を巻くことが出来ない。
本来なら簡単に逃げれる相手だが、胸の出血と、過剰に使いすぎた魔力が全身の機能を著しく落としている。まともに走る事すら難しい。
今は騙し騙し逃げれているが、早く距離を離さないと捕まってしまう。公爵家の屋敷に逃げる訳にもいかない。
ただ必死に逃げる……。
「はぁはぁ……はぁ」
息が続かないし、意識も怪しくなってきた。
「こっちよ」
唐突に現れたのは情報屋の女だ。
【公爵令嬢と君の剣】元暗殺者は貴族だらけの学園で傲慢な姫様を護り抜く NEET山田 @neetyamada
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。【公爵令嬢と君の剣】元暗殺者は貴族だらけの学園で傲慢な姫様を護り抜くの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます