第2話
「本当に礼儀知らずね! そんな汚い言葉、産まれて初めて言われたわよ!」
姫は怒鳴り始める。どうしたもんかと考えたが、どうにもならない事を悟り口を閉ざす事にした。
リンは必死にフォローに入り鎮火を試みている。頑張ってもらいたい。俺が口を開けば余計悪化する以上、エールを送る以外にやる事は無い。
リンの必死の説得あってか姫は大人しくなる。表情を見る限り不機嫌な事に変わりは無いが実害は無くなった。
これで案内ぬ集中できる。木々の目印を確認しては進みを繰り返す。一応、聖地までの特殊な地図を用意しているが、それを見るまでも無く順調だ。
沈黙の中、足で踏まれる枝や落ち葉の音だけが耳に残る。
「リンもうすぐ聖地だ」
「そうか!それはよかった」
リンは嬉しそうに微笑む。後ろの姫にも見習って貰いたいもんだ。
リンは直ぐさま姫の隣に駆け寄り話しかける。
それを聞いて姫は少し嬉しそうな顔を浮かべるが、すぐに不機嫌モードにスイッチが変わる。
ここまでくると感心さえする。そう思っていると木々が空け見渡しが良くなる。
到着だ。
背の高い用途不明の石柱が遺跡の入り口の周りに立ち並んでいる。
手を加える事が厳禁とされているこの場に派手な物は無い。知らない者が来れば柱にションベンを引っ掛けるに違いない。
王業に聖地や遺跡などと呼ばれてはいるが、その実、中はかなり狭く少し歩けば最奥の神殿までたどり着ける。
それゆえまだ発見されていない場所があるのでは?と調査団が入る事もあれば、夢見た遺跡荒らしが不法侵入する事もある。
姫一行が柱には目もくれず通り過ぎ、地下に続く遺跡の入り口に着くと護衛の半数が遺跡に入って行く。安全を確認しに行ったのだろう。
ものの数分で遺跡から護衛達が出てくると「問題ありません」と男が言うと、リンがうなずき姫に話しかける。
「安全確認を終えました。成人の儀はここからお一人で向かう事になります。何か有れば大声をおあげください。すぐさま駆けつけます」
「わかったわ」
姫は遺跡の地下に一人で入れと言われても不安の表情は見せなかった。その表情はやはり苛立ちを見せている。ぶれない女だ。
なんの躊躇いもなく階段を降りて行くその勇しさに少し尊敬の念すら抱く。
姫が遺跡に入った事を確認して護衛の一人が入口の石に耳をつけ緊急時に備え、他の者達は周りを警戒している。
そんな時ふと人の気配を感じる。
「ちっ」
舌打ちせずには居られない。後は帰るだけだてのに……。
距離が遠くて人数まではまだわからないが、俺達が来た逆側の位置にいる事はわかる。
リンの顔を盗み見るがまだ彼女は気づいていないと見える。
太刀打ち出来ない数ならば逃げるに越した事は無い。だが、たいした相手で無ければ姫の護衛が片付けてくれるだろう。
ここは状況が見えるまで動けないな……。
リンに近づき小声で話しかける
「入って来た反対側から気配がする。恐らく人間だ。数まではわからないが警戒に越した事は無い」
リンは少し眉を動かすと、何も言わずにハンドサインを出す。その意味はわからないが、うまくやってくれるだろう。
そうこうしていると姫が地上に上がってくる。
姫は「さっさと帰るわよ」とぶっきらぼうに告げ、スタスタと来た道に戻り始める。護衛は急いで厳重な警戒態勢で姫を囲うが、それを不審に思ったのか姫が口を開く。
「なにかあったの?」
リンがすぐに答える。
「曲者がいるやもしれません」
「そう……ならさっさと始末しなさい」
その言葉と同時に後方から砲撃魔術が飛来する。
ーードゴォン!
護衛の防御魔術と衝突し。衝撃音が鳴り響く。辺りは魔力残滓と土煙が混じり合い視界を奪う。
クソっ!目的は遺跡や俺じゃなく姫だ。それも誘拐目的の威力では無い、明らかに殺しに来ている。
視界が確保できない。暗殺者達が距離を詰めて来ている事を感じるが、舞い上がった土煙が音を邪魔して正確な人数を測ることは出来ない。恐らく同数かそれ以上だ。
……まずいな、護衛対象がいる以上こちらが不利だ。
リンが大声を張り指示を飛ばしている。
「お嬢様のお体が第一だ!後退しながら防御陣をしけ!鼠一匹通すなよ!」
狙われてる本人は呑気に肩の土をほろっている。
「土まみれじゃない! 最悪よ!」
この状況でその言葉が出ること自体、俺には到底理解出来ないが面白い女である事には違いない。
ーードゴォン!
二撃目の魔導砲撃が飛んでくるが、護衛兵の防御魔術が威力を上方に逃がしながら防ぎ切る。
しかし土煙をかき分けて七名の暗殺者が姿を表す。
獲物は刀。顔は白無地の仮面で伺う事は出来ない。
「絶対にお嬢様には届かせるな! もう魔導砲撃は無い! 防御魔術は攻撃にまわせ!」
護衛は暗殺者の行手を阻みブロックすると、敵は防御を抜けないと見て、護衛を減らす方針に変えたようだ。
暗殺者と護衛兵が乱戦状態になる。
一人また一人と倒れてく護衛達。敵も同じく減っているのが唯一の救いだ、しかし、これではジリ貧だ。
「お嬢様二手に分かれます。今のうちに距離を離します。アルス! 案内を頼む! なるべく急いでくれ」
「了解した。いくぞ」
リンの提案を飲み、走り始める。後ろには姫とリンと護衛の男が一人がついてくる。
残った人間は生きては帰れないだろう。戦闘に勝利してもその足で知らない森の踏破は難しい。
「はぁ……はぁ……はぁ…」
姫は息を切らしながら必死についてくる。明らかに限界が近いことがうかがえる。
……まずいな、そう思いながら少しペースを落とし進み続ける。
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