第12話

 決闘のその日まで俺とリリーは学園を休む事にした。休んで何をやるかと言われれば鍛錬だ。数日鍛錬した所で何が変わる訳でも無いが、やらないよりはましだろう。


「ところでなんでお前がいるんだ、アカリ?」

「庭に変質者がいたら誰でも見に来るわよ」


 逃げるやつはいても、見に来るやつはお前ぐらいだ。


「別に見てても楽しくないぞ」

「庭で裸になってる男を眺めるほど楽しい事は無いわ」


 とんでもない性癖を暴露しはじめた。


「何勘違いしてんの、滑稽で面白いのよ」

「勝手に心を読むな」

「あんたが判りやすいのよ」


 まったく集中でき無い、こいつはいつ働いているのだろうか? サボってる姿しか見ないが。


「それで、決闘の噂は本当なの?お嬢様が泣いてたのはそれが原因?」

「そんな事、お前にはどうでもいいだろ」

「あんた馬鹿ね、メイド界では噂を制する者が立場を制するのよ」


いやな世界だな、おい。


「で、どうなのよ? 勿体ぶってるんじゃないわよ!」


このしつこいメイドは食い下がる気は無いようだ。


「本当だから邪魔すんな」

「あらあら! スクープじゃない、こんな事してる場合じゃないわ、皆んなに言いふらして来ないと」


そう言ってウキウキしながら凄い勢いで消えてった。


なんなんだあいつ……。


 気を取り直して再開する。邪魔も居なくなり適度な休憩を挟みながら続けていると、日が落ち始める。


 後ろから気配を感じ振り返ると、見知らぬメイドがやってくる。


「アルス様、お客様がお見えです。エインと名乗っておりますが如何しますか?」


 商家の男か……、わざわざここまで来るとは相変わらずのようだ。だが手間が省けた。


「俺の部屋に呼んでくれ」

「かしこまりました」


 ペコリとお辞儀し、去っていくメイドを眺めながら汗を拭いて服を着ると、自室に向かう。




 部屋で待っていると、コンコンと扉を叩く音がする。


「エイン様が参られました」

「入ってくれ」


 先程のメイドと共に入室してくると、メイドは紅茶の準備ですぐに出て行く。


「アルスさん! お元気そうで何よりです。噂は聞いておりますよ」

「広まってるのか?」

「少なくとも学園生は全員知っていますね、今日はその話題で持ちきりですよ」

「それは随分早いな。それで? 何を持って来たんだ」

「話が速くて助かります! この部屋に持ち込んでも?」

「あぁいいぞ」


 エインは足早に消えていく。ボーと窓から庭先を眺めながら待っていると部屋の扉が開く。エインかと思って振り向くとアカリだった。


「お前は何しに来たんだ?」

「紅茶を持って来たのよ、ちゃんと仕事してるのよ」


 やたら自慢げに言ってくるアカリは紅茶を入れ始める、不思議なのはティーカップが三つある事だ。ここまできたら流石に予想はつく。


「お前は出て行け……」

「な、ななな! そんな事言って自分だけ買い物する気なんでしょ、ずるいわ、ずるい! 私にも幸せ分けなさいよ」


 大声でタダをこね始める。


「わかったから静かにしてくれ」

「わかったて言ったわね、男に二言は無いわよ!」


 アカリは本当に嬉しそうな顔を浮かべて喜んでいる、メイド業は買い物が出来ないぐらい忙しいのだろうか。考えたがアカリに限ってそれは無いと否定する。


 紅茶を飲みながら、アカリと馬鹿な会話をしているとエインが帰ってくる。エインの後ろにはぞろぞろと男達が箱を持って歩いてくる。どんだけ持って来てんだよこいつ……。


 俺は部屋に入り切るか不安になるっているなか、アカリは目を輝かせて今か今かと待っている。


「アルスさん、まずは髪細工などはどうでしょう?リリー・ヴェルクス様にお似合いになると思いますが」

「なにこれ、可愛いじゃない。お嬢様に絶対似合うわ」


 髪留めを手に取り力説する。どうやらアカリにも忠誠心があるらしい、てっきりアカリが欲しい物を買うと思っていた。


「おぉ、お目が高い、それは王都一の職人が編み込んだ髪留めになります、素材も最高級品の逸品です」

「アルス買いましょうよ、お嬢様喜ぶわ! これ一つじゃ味気ないから、この髪飾りもついでに買いましょう。このクローバー私に似合うじゃない、しょうがないわね私がつけてあげましょう」


 しょうもない三文芝居が始まる、見直した俺が馬鹿だった。アカリはアカリだ、忠誠心なんて幻でしかない。


「わかった、買うから大人しくしていろ」

「流石アルス、私が認めた男だけあるわ」


 調子のいいやつだ。普段はボロクソに言う癖に。


「ありがとう御座います。髪留めは綺麗に箱詰め致します、アカリさんはどうしますか?」

「このままでいいわ」


 そう言って早速、クローバーの髪飾りを髪につけると、自慢するかのように見せびらかしてくる。それを無視して、一枚の紙を取り出し筆を走らせ、その紙をエインに見せる。


「用意出来るか?」

「今ある物もありますが、他は明日になりますが用意は可能です」

「頼む」


 そう短くつげると、エインは他のものを勧め始めるが興味が湧くものは無かった。その間、終始アカリは騒いでいたが、それに付き合う気にはならなかった。

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