ヤンデレ系スポーツ女子のせいで僕は今ロッカーに監禁されています。

山田響斗(7月から再開予定)

第1話 たゆたう視線

 染谷そめたに こと

 読みにくいとか、女の子みたいとか言われるが、それが俺の名前──



 桜舞う季節。

 不意に頭に痛みが走って目が覚めた。

 縦長で狭くて、とても暗い空間に閉じ込められるように入っている。

 そう、ここはまるで……ロッカーの中の様な場所。

 たしか今まで、仲のいい友達と話してたはず……。


 ガチャ。

 ロッカー?の扉が開いてまばゆい光が目に入る。

 逆光でまぶしくて、そこに居るのが誰か分からなかった。

「あ、やっと起きたんですか?」

 囁くように小さく柔らかな声は、紛れもなくその友達のものだった。

「なるほど、睡眠薬が凄い効くんですね。覚えときます。」

「………。」


 彼女の欠点は、「ヤンデレ」 であるということ。

 しかも、重度の独占欲が発作を起こすことがある。


 光に慣れてきた目は、バスケットボールを持ったユニフォーム姿の友達を捉えた。

「なんでこんな所に……」

 そんな質問をする俺は、ここから逃げ出そうと躍起になっていた。

 なぜなら、俺の手には……。

「だって、見てない間に浮気とかされたら嫌ですから。……ってか、監視してたい。」

 なんか最後にボソッと聞こえた気がする。

そもそも浮気以前にこいつとは友達だし、彼女じゃない。



「だからって手錠てじょう……つけなくても良くないか?」

 自分の手に取り付けられた手錠は、動く度に金属音を鳴らしている。

手錠てじょう付けられると興奮しません?私はしますよ〜!」

「お、お前……。」

 彼女は頬を赤らめて恍惚こうこつとした表情でボールを強く抱きしめて、左右に体をじっている。


 手錠の鎖は、後付けの長い鎖によってロッカーの天井に繋げられている。

 どうやらここから出るには、こいつに頼まないとダメらしい。


「浮気とかしないから、この手じょ……」

「じゃあ練習行ってきますね。」

 バタンっと音を立てて閉められた扉を俺は眺めているしか無かった。

もう少し俺の話を聞いてくれてもいいんじゃないか?

そんなことを思いつつ、受け入れるしかない現実を見つめ直した。


 そう、彼女の名前は……。

 ──────────────

 あれから何十分経ったのだろうか……。

 定期的にキュッ、キュッと体育館の床とシューズが擦れる音をBGMに状況を整理し始めた。



***


 去年の秋。

 それは友人との下校中の事だった。

「おい、なんか視線感じないか?」

 数分前から背後から視線を感じていた事を打ち明けたが、友人は気づいていないようで、

「気のせいだろ。」

 と、答えるだけだった。

 ……その時までは。


***


「おい……視線感じないか?」

 今度言い始めたのは友人の方だった。

 最初に視線を感じた時から数週間。

 視線を感じる頻度はどんどん増えていき、"休み時間""掃除時間""登校中"もずっと。

 さらに、家にいる時間でも視線を感じる様になった。


「お兄ちゃん。」

「なんだ?」

 2つ下の妹は、用事以外で中々話しかけてこないはずなのに珍しかった。

「最近、視線感じるんだけど。もしかして、お兄ちゃん?」

「俺じゃねぇよ……。」

 そんな濡れ衣を着せられるほどに視線は四六時中続いた。

どうしようもないほどの黒歴史を持っていた俺は、妹の中での家族カーストで犬以下だと言われたことがある。


「お兄ちゃん、欲求不満?」

「だから違えって。」

 ……。


***


 それから間も無く、ついに犯人の手がかりが掴めた。


 ついに我慢が出来なくなった俺は、下校中に友人と結託けったくしてある作戦に出た。


 ストーカーのストーカー作戦。

つまり、俺が下校しているところをつけてくるであろう"ストーカー"を友人がさらに後ろから探すというものだ。



 ──しかし、作戦は失敗。

 見つかったのは友人が拾った、1冊のノートだけだった。

「理科ノート……。誰のだ?」

「あぁ、拾っただけだから誰のかわからん。……中見るか?」

 さすがに止めておいた。

 誰かの理科ノートを勝手に見るほど、デリカシーが無いわけじゃない。

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