第5話 1人で抱え込むなよ若者

 3月2日。

 まずは、昨日の事を話しておこう。

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 ──誤魔化さないでください!


 後輩に怒られた後、いくになるべく嫌われない当たり障りの無い言葉でなだめる事になってしまった。

 しかも、なだめる様子に飽きたのか、先に帰り始めたゆい文凛ふみりちゃんも見送り、郁と2人きり。

(気まずい……。)


 ──あの、MINE《マイン》交換しませんか?


 ──そうだな、疑って悪かった。


 ──いえいえ、私の事見てくれるなら疑って貰ってもいいです。


 ──あ、そうだ。郁に2月3日の事で1つ聞きたいことがあるんだが……。


 ──新人戦の日ですか?


 ──そう、その日に野田のカツラを隠したやつの事知ってるか?


 ──あぁ、確かその事件の犯人は■■■でしたけど?


 ──ま……まじかよ。

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 なんだかんだで状況は、ほぼ振り出しに戻った。

「はぁ……。」

 犯人探し1日目からゆいは自殺志願し始めるし、危うく初対面の後輩にも危うく嫌われそうになるし……。

 それにしてもせわしない1日だった。


「そんな辛気臭い顔してどうした、おことちゃん。」

「その呼び方やめろ、悠仁ゆうじん

 こいつは、あのストーカー事件でノートを拾ってきてくれた俺の友人ゆうじん悠仁ゆうじんだ。


「ってかそんなことより、ノート返したか?」

 気さくな奴だが、俺よりもデリカシーが無い。

 女子には中々深い付き合いがしてもらえない、もとい、遊びに誘っても拒否されるのが悩みらしい。


「まだだよ、しかもまだ誰のかもわからん。」

「まだわかんねぇのか?ストーカー位にストイックに取り組めよ。」

 ストイックなストーカー?

 目的も方法も不純すぎるような気がするんだが……。

「俺は、法に触れるストイックさなんていらねぇよ……。」



 キーンコーン……。

 4時限目の終わりを告げた鐘の音も、どこか元気がなく感じる。

 チャイム……俺にも、その気持ち分かるよ。

 ……俺は、一体何を考えてるんだ?

 そんなことを感じながら屋上までの階段を1つずつ登り、ドアを開けた。


 開いたドアに目を向けたようキャ(陽気なキャラ)達の1人が誘う。

「琹〜、一緒食おうぜ。」

 こんな気持ちだし、そうするか。

 話したら、元気になれる……かも。

「おう。」

 ちなみに俺は、陰と陽のどちらでも無いから、友達は多めだ。



 ガヤガヤと活気よく弾む声。

 陽キャの輪の中で、食事を終えた。

「そろそろ俺、行かないと……。」

「琹、なんか用事?」

「あぁ、ちょっとな。」

 それは今、俺の中で最も大事な用事である、ストーカーに関することだった。

「あっ!」

 ""あっ、小林製薬""のコマーシャルを彷彿ほうふつとさせる「あっ!」を繰り出したのは陽キャの1人だった。

「そういやこの前、お前ん家の前に後輩いたけどさ、もしかしてお前ホ……。」

「後輩……?どっ、どんな奴?」

 食い気味に聞いてしまった。

「あそこに居る女子バスケ部の、おとこだけど……。」



 ギィィッ 。

 木造の旧校舎としては正しいのかもしれないが、音を立てて徐々に開くドア。

 恐怖がそそられる。

「お、おーい……楚良そら。居るか?居るなら返事してくれ。」

 誰も……いないのか?

 じゃあ、こんな所さっさとおさらば……。

「俺は後ろに居るが?」

「デュワッ!?」

 ウルトラなマンを踏襲とうしゅうしたリアクションを取って驚きつつ、尻もちをついた。

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