第4話 …犯人は川園 郁?

 今日は3月1日。

 犯人があの日記をつけ始めてちょうど1ヶ月。

 犯人にとってメモリアルな、今日の太陽が暮れ始めた放課後の事。

 ゆいに相談をしたのは今朝なのに、早くも事件は解決に向かいつつあるのは驚きだった。

まだ、確証はないけど。


こと〜、連れてきたよ。」

 少し遠くで唯が、バスケ部の肩力けんりょくを活用して手を振っているのが見えた。

「お、おう。」

 つい、気の抜けた声が出てしまったことに自分も驚きだった。


 唯に連れられて、小柄な体でテクテクと歩いて来る女の子。

 ……と謎の男の子。

「あの女の子が……?」

 さすがに、ストーカーとは思えない。

 なんかちょっと"アホ"な感じがする。

 抜けてると言うか……唯と似てる感じがする。

「あわっ!」

 どてっ。っと、音を立てて転んでしまった郁ちゃん。

 あんなどんくさい子にストーカーという器用な行動は出来ない、と思う。



「唯……。そっちの子は?」

 俺は顔が整っている謎の男の子を指さして言った。

 先に反応したのは唯じゃなくてその子だった。

「あっ、初めまして……川園かわその いくって言います。」

 …………ん?

 いやいやいや…………いや…いや……。

「じゃ、じゃあそっちの女の子は?」

「え?私の後輩の文凜ふみりちゃんだけど?一緒に帰るからついでに連れてきただけ。」

 文凜ちゃんって……い、陰性いんせいの子じゃん。

 ※陰性…琹の事が別に好きじゃない。なんだったら、嫌いな人の総称。


「は、はぁ?待て待て、お前……ちゃん付けして呼んでたじゃん。」

 確か、『いくちゃん』って言ってたはずだ。

「そりゃだって女の子だから。……心が。」

「こころ……。」


 改めていくくん?ちゃん?をまじまじと見る。

 透き通ったきれいな肌に端正たんせいな顔立ち、女の子と言われても分からない。

 ただ制服が男子のものということを除けば女子である。

 見つめている内に、いくくん?ちゃん?の頬が紅潮こうちょうして来たし、上目遣いな目も瞬きが多くなった気がする。


「2人とも、急に見つめあってどうしたの?」

 さすがにガン見し過ぎたか。

「いや、ほぼ女の子だな〜って思ってさ?肌綺麗だし。」

「えっ、そそそ、そんなこと……ないです。」

 いくくん?ちゃん?はさらに顔が赤くなる。

「はぁ……ことは、郁ちゃんを口説くために来たの?」

 あっ、肝心なポイントを忘れてた。

 ちゃんと聞いておかないとな。

「あのさ……。」

「は、はい。」

 いざ聞く となると言葉が詰まる。

 でも、今聞いとかないとな。

「あの……、その……。"くん"と"ちゃん"どっちで呼んだ方がいい?」

「えっと……、"いく"って呼び捨てがいいです。」

「そっか、そうだよな。わかった。」

 なるほど、両性どっちでも大丈夫な呼び方があったな。

 そうだよな〜、俺は馬鹿だな〜。

 ははは……はは……。

 ……。

「郁、ちょっと待ってて。」

 そう言って俺はゆいだけ手招きで呼んで、小声で会議を始めた。


(切り出せねぇよ!)

(はぁ?)

 唯は呆れた様子だ。

 と言うか、若干怒ってる

(何が「ストーカーですか?」だよ……。初対面で聞けねぇよ!)

 恐らく俺は初対面じゃなくても言えないけど。

 なんなら幼馴染ですら聞けない。

(仕方ないなぁ。じゃあ私が言ってあげるよ。)

(え?ちょっ、待……。)

 スタスタと軽く歩いていく唯。

 こんな所で発言スキルを発動されても困る。


「実は今さ、ことのストーカーを探しててさ……何か知らない?」

「す、ストーカー!?」

 ゆいと俺の顔を交互に見るいく

 その内落ち着きを取り戻すと、郁は落胆気味に言った。

「もしかして……私が疑われてるんですか?」

 これはまずい、初対面の子から嫌われてしまう。

 迅速なフォローをしないと……。

「そ、そんなんじゃなくて、何か知らないかって事を……。」

「誤魔化さないでください、先輩!」

 うっ……。

 郁の真剣な目がどこか悲しそうにも見える。

「疑われてもいいですけど、私はやるなら正攻法で行きますっ!」

 頬を膨らませて怒るいく


 ……か、可愛い。

 ってか、正攻法で来られても困るんだが。

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 3話ぶりにロッカーの中の俺。

 いくと出会った日の事を思い出した。

 まだ1ヶ月と少ししか経ってないのに、相当前の事のようだった。


 今考えると、ロッカーに入れられても仕方ないと思うほど、あいつ・・・の気持ちを踏みにじってたんだな……。


「誤魔化すな、か……。」

 あの後も色んな奴から言われたな。

 俺は、ずるい奴だからそんなの無理だよ。

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