第3話 琹が病原菌なら……

「なるほど、後輩で身長が低い……か。」

 ゆいにある程度の条件を伝えると、部員を絞ってくれた。

「さすが風紀委員。」と思っていると、ゆいは唐突に顔を上げて言った。


「私じゃん。」

 思ってもみない言葉が飛んできたせいで、かつてこいつが英語で"2点"を取る程の馬鹿だったことを思い出した。

「背は低いけど、そもそもお前後輩じゃねぇだろ?」

「一応後輩だよ?病気で1ヶ月遅れで学校に来始めたから。」

 それは後輩と呼べるのか?

 まぁ、1ヶ月だけとはいえ後輩は後輩か?


「まぁ、ストーカーが唯だったら良かったんだけどな。」

「えっ?」

 ゆいは上ずった声で反応した。

 こいつは昔からあがり症だったから、少しおちょくると反応してしまうくせがある。


「そ、それってどういう事?」

何らかの期待を胸に秘めたような顔をしたゆいが聞いてくる。

「いや、アホだからすぐ犯人だってバレるだろ?」

 あれ?さっきと打って変わって、ゆいの目が死んでる。

 ……返事がないただの屍のようだ。



そんなことを考えていると、ゆいは唐突にカバンを探り始め、中からAndroidを取り出してボソボソと言った。

「……OKオッケー Glegleグルグル、近くの自殺スポットを教えて。」

「だぁぁ!俺が悪かった、ごめん!」

 まさか、自殺を志願するほどに思い詰めるとは思わなかった。

大体、近くに自殺スポットがあるとか教えてくれるはずない……。

と思いつつ画面に表示されていた「屋上の柵の外側」という文字が見えてしまい、軽率な考えだったと感じた。




 一悶着あって、ようやく本題。

「3人見つかったけど、どうやって聞き出すわけ?」

「うっ……。」

 しまった、何も考えてなかった。

 確かに、「ストーカーですか?」って聞いて「はい、そうです。」とは、ならないしな。


「やっぱり考え無しか……わかった、聞いて来てあげる。」

"やっぱり"という言葉に反応しそうになったが、その気持ちを抑えて話を聞く事にした。

「聞くって……どうやって?」

 上手い聞き方が恐らく存在しない次元じげんの質問だと思うけど。

「"ことが君の事好きだよ"って言って、顔が赤くなったら陽性反応。」

「病気みたいに言うなよ。」

 恋はやまいって事か?

 ってか、それならお前も陽性じゃねぇか。

 と思いはしたが、鼓膜に響く予鈴がホームルームの開始を告げようとしていた。─────────────────

 その日の昼休み。

 珍しく視線を感じない真の自由時間を満喫していたところだった。

 それは、昼休みも残り10分位になった頃。

「琹、聞いてきたよ。」

 まるで朝飯前……いや、昼食後というように、ドヤ顔で現れた。

 ……昼食後?


「仕事が早いな。で、どうだった?」

文凜ふみりちゃん、陰性いんせい萌百ももちゃん、陰性いんせい……。」

 ……"モテない"とはまさにこの事か!

 "年齢=彼女なし"のこの病原菌では、感染は非現実的という事実が襲いかかる。

俺は、最後の一人に一縷いちるの望みをかけて祈った。

"モテたい"と……。


「そして、最後の川園かわその いくちゃん、陽性ようせい。」

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